シーラじいさん見聞録

   

「しかし、おまえたちにも、ニンゲンが怖がる仲間が揃っているじゃないか」別のシャチが不思議そうに言った。
「えっ、どういうことだ?」
「海で一番大きなもの、一番強いもの、一番早いものが仲間になれば、ニンゲンは警戒することがわかっている」
「おれたちは、そんなことをするためにいっしょにいるのじゃない」リゲルは、また叫んだ。
そのシャチは、そんなことにかまわず話しつづけた。
「やつらはちっぽけで弱いが、なにせ飛び道具をもっていて、上や下からも撃ってくるから、すばやく対応しなければならない。
やつらが攻撃をしかける前に、一番早いものがやつらの乗り物を見つけ、一番大きなものが揺さぶり、一番強いものが海に落ちたものに止めを刺す。
しかし、数が多すぎると、やつらに狙われるやすいから、これぐらいがちょうどいいんだ。
それじゃ、またどこかで会おうぜ」そして、そのグループはどこかへ向かった。
リゲルたちは、事態が益々悪くなっていることに呆然としながら、グループが消えるのを見ていた。
「少し急いだほうがいいかもしれないな」リゲルが言った。
「少し離れて行動しようか」ミラが言った。
「そうだな。しかし、あまり遠くに行かないでくれ。やつらの話がどこまで正しいのかわからないからな」
「了解」
今まで、夜は休むことにしていたが、北上を続けることにした。そして、朝が明けた場所を基点にして、個別に探すことにした。
数日後、夜遅くなってもミラが帰ってこなかった。
ミラがどの方向に行ったのかはわからないので、探すことができない。
しかも、帰ってきたとき、誰もいないとなれば、次の行動に支障が出る。リゲルたちはやきもきしながら、ミラの帰りを待つことにした。
朝早く、シリウスが、「ミラが帰ってきたようだ」と叫んだ。しかし、他のものにはわからない。「こっちだ」シリウスはじっと耳を澄ませている。「だんだん大きくなってきた」
「ほんとだ」みんな声のほうに急いだ。
しかし、まだ夜が明けきらないので、姿は見えない。
「「はっきり見えないけど、大きな影が動いているわ。しかし、動きは遅い。ミラなら、そんなことはないはずだわ」ベラが飛びあがっては報告した。
「そっちへ行こう」みんな急いだ。やがて、夜が明けかけたのと距離が近づいたので、姿がはっきり見えるようになった。
「ミラ!」リゲルが声をかけた。声が反応した。
「どうしたんだ?」
「ちょっと調子に乗りすぎたかな」疲れているようだが、少し笑って答えた。
「何かあったのか」
「撃たれたようです」ミラは恥ずかしそうに答えた。
みんなは驚いて、ミラのまわりに集まった。確かに血のにおいがしている。
「どこを撃たれたんだ?」
「腹だと思います。後ろのほう。でも、かすっただけですし、少し休んだから、もう大丈夫です」
「腹が大きく裂けていますが、血は止まっています」ミラのまわりを調べていたペルセウスが言った。
「少し痛みがあるが、もう大丈夫」ミラは、自分でも安心したように言った。
「船を見つけたのか?」リゲルが聞いた。
「そうなんですが、そう大きくない船だったので、ニンゲンがいないか見ようと少し近づきました。
大勢のニンゲンが、こっちを見ているのに気づいた。やがて、ニンゲンの動きが激しくなったので、これは何かあると思って潜った。すると、何か追いかけてくるような気配がしたので、ジグザグに逃げた。
しかし、同じように追いかけてくるんだ。もし、ミサイルだったら、もう終わりだと観念した。目標に当たるまで追いかけてくるとシーラじいさんから聞いていたから。
シューという音がだんだん大きくなってきた。どこか隠れる場所がないか探したが、あせってわからない。
そこで、海面に近くまで戻って、わざと速度を落とした。そして、音がすぐそばで聞こえるようになったので、一か八か思いっきり飛びあがった。
そのとき、ドンという音がしたかと思うまもなく、背中から海面に落ちた。
あわてて体勢を戻して逃げようとしたが、激しい痛みで動けなかった。
もうだめかとあきらめたが、それ以上の攻撃はなかったし、船がこっちへ来ることもなかった。しかし、しばらくその場を動けなくなった」
みんな、ミラの話を、固唾を呑んで聞いていた。
「危ないところだったなあ。シーラじいさんが来るまで、しばらくここで休むころにしよう」リゲルが、みんなの気持ちを代弁して言った。
2日後、シーラじいさんが来た。ミラの話を聞くと、「ミサイルは、ニンゲン同士が戦争をするときに使うものじゃ。動物に使ってくるとは聞いたことがない」と言った。
「センスイカンとまちがったのでしょうか?」ペルセウスが聞いた。
「それはない。レーダーでわかるはずじゃ。ニンゲンは、よほど追いつめられているかもしれんな」
「ミラ一人でも攻撃してくるようになったということでしょうか」オリオンも聞いた。
「そうじゃろな」
「それなら、ぼくが一人で船に近づきましょうか」
「おまえのように、ニンゲンに親しまれているものでも、今どういうように思われているかわからんので、もう少し様子を見ることじゃ」
そのとき、「あなたはオリオンじゃないの?」という声が聞こえた。

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