シーラじいさん見聞録

   

オリオンは、シーラじいさんがうなずくのを見るやいなや動きだした。
ベラが、すぐにオリオンを追った。その後、シリウス、ミラも急いだ。
リゲルは、シーラじいさんに、「危険なときはすぐに引きかえます」と言ってから、みんなの後を追った。
途中、オリオンは少し疲れた様子を見せたが、休むことなく海底に着いた。
硫化水素のにおいがかすかにしている。それで、いつもの場所に向かった。
シリウスが、「しばらく様子を見にいってくるよ」と言った。
「そうしよう。オリオンとベラは残ってくれないか。なるべく早く帰ってくるが、間にあわない場合は、合図を送ってくれ」
「了解しました」ベラが答えた。
「いや、ぼくも行くよ。もう大丈夫だから」
「そうか。無理するなよ」
リゲル、オリオン、シリウス、ミラは、その場を離れた。
オリオンは、ぐっと体に力を入れた。深海を泳ぐのには力がいる。水圧に負けないためだ。また、真っ暗なので、どこかに誰かいないかを感知するためにも意識を集中しなければならないからだ。
しかし、だれにも出会わなかった。2,30分してから集合場所に帰ると、みんな帰ってきていた。
「誰もいない。ペルセウスが外で襲われた可能性はほぼないな」リゲルが言った。
「それじゃ、穴のほうに行こうか」オリオンが言った。
「わたしも行く」ベラが言った。
「それじゃ、みんなで行こう」リゲルはすぐに認めた。
においは薄れていた。穴に急ぐと、「大丈夫だったか」という声が聞こえた。
あのハオリムシの子供だ。種類はシーラじいさんから聞いた。
木のように伸びた体内には、硫化水素と酸素を食料とする細菌が無数にいるそうだ。
ハオリムシは、その細菌が出すものを食料として成長しているのだ。だから、硫化水素が出る場所にいなければならない。
シーラじいさんは、硫化水素が1時間出て5分止まるということをくりかえしていることや、10メートル近くまで成長するハオリムシがいることは、ニンゲンの本には出てこないと言っていた。
オリオンたちと話をするようになった子供は、まだ3メートル前後から、まだまだ大きくなるのだろう。
「ありがとう。きみから教えてもらったことがとても役に立った。ただ、自分の失敗でみんなに迷惑をかけたが、もう大丈夫だ」オリオンは礼を言った。
「そりゃ、よかった。きみらの仲間は見かけなったよ。みんなでずっと気をつけていたけど。
それから、ぼくらの足元にいる者が、また下の穴にいる仲間からに聞いてくれたんが、一度、何かがぶつかったことがあるんだって。
きみらにとっての毒が出る穴には、まちがっても誰も来ないはずなのに、何かが入りそうになったらしいよ。
穴にドスンとぶつかってどこかに行ったそうだ。ぼくらも含めて、この近くにいる連中は誰も目がないので、どんなものかわからなかったようだが」
幸い、そいつは、頑丈な鎧をつけているので、何事もなかったらしいがね。
実際、ぼくらの足元にいるのは妙な連中ばかりだ。自分では働かないで、小さなものがせっせと集めたものを横取りする。ぼくらもそうだけどね。
しかも、ぼくらから横取りするものもいる。ほら、ふわふわ浮いているのがいるだろ?
このカニは、ぼくらにも喰らいつくんだ。でも、きみたちのために仕事をする約束をしてくれているよ」
「それはありがたい。ぶつかったものは、ぼくらの仲間だと思う。何かを追いかけていたかもしれない」オリオンが答えた。
「これからどうするの?」子供が聞いた。
「後9分ある。みんなと穴に入ってくる」オリオンは答えた。
「わかった。気をつけるんだよ」
「それじゃ、入ろうか」オリオンは後ろを振りかえり、みんなを促した。
リゲルたちはうなずいた。
オリオン穴に飛びこんだ。みんなが追いかけた。ミラはハオリムシたちを驚かさないようにゆっくり入った。
100メートルぐらい進むと、オリオンは止まった。「右が硫化水素が出る穴だ。
ペルセウスは右に行ったのかもしれない。しかし、おかしいことに気づいて、反対に戻ったのだろう。
ぼくらも、左の穴に入ろう。この変から、体の自由がきかなくなるよ」
「ほんとだ。力を抜くと、前に進まない」シリウスが叫んだ。
「みんなとどんどん離れていくわ!」ベラも叫んだ。
「そうだろう。ぼくはこれにやられたんだ」オリオンが言った。
「これほど磁力が強いとは。ミラはどうだ?」リゲルが聞いた。
「大丈夫です。ちょっと勝手がちがうようだけど」
「そうか。ミラについていくようにしろ」リゲルが叫んだ。
「もうすぐ行くと、次の分かれ道になる。ぼくは、右を選んだけど、左のほうにも行けるような気がした」
「そうか。きみがセンスイカンのようなものを見たのは、右のほうだったのだろう?」
「そうだった」
「それじゃ、右に行こう」時間がないので、リゲルはすぐに決めた。
様子をみながらゆっくり進んだが、何も変わらない。暗闇がつづいているだけだ。
「みんなここで待っていてくれないか。ぼくが見てくるから」ミラは、そう言うと奥に向かった。
その間にも、体があちこちに引っぱられるので、お互いにぶつかりながら待っていた。
ミラが帰ってきた。「よし、戻ろう」リゲルは叫んだ。
ミラの後を追いながら、ハオリムシの子供たちがいる場所を出た。しかし、時間がないので、挨拶もしないで、一気に上に向かった。

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