シーラじいさん見聞録

   

その声はと思って見上げると、はたしてあのカモメだった。
オリオンたちが声をかける前に、「ずいぶん探したのよ。みんなこんなところで何をしているのよ」と言いながら降りてきた。
「クラーケンを追いかけているのです」オリオンが挨拶代わりに答えた。
「シャチの若者が探していたわよ」
「それは申し訳ないことをしました。訓練の約束をしているのを忘れていました」リゲルがあわてて言った。「できるだけ早く帰るからと言っておいてくれませんか」
「心配しているのは若者だけじゃないのよ」
「えっ!シーラじいさんには話してあります」オリオンが怪訝そうに言った。
カモメはそれには答えず、「もうすぐ来るわよ」とだけ言って、少し飛びあがった。
そして、あちこちを回って、少し離れた場所に下りた。しかし、誰もいそうにない。波も起きていない。
しかし、カモメは、「ほら来たわよ」と言いながら、また戻ってきた。
途方にくれていると、微かに「おーい」という声が聞こえてきた。少し風があれば聞こえないほどの声だ。
しばらくすると、「わしじゃよ」と声がした。誰かの顔に答が書いてないか見まわした。
2,3秒後、みんな答がわかった。「ウミヘビのばばあ!」と同時に叫んで、そちらに急いだ。
ミラまでが近づいたので、嵐のような波が起き、ウミヘビのばばあは、それに飲まれてしまったか姿が見えなかった。
「ウミヘビのばばあ!」と探しまわっていると、ようやく静まった海面から頭をぐっともたげて、「乱暴なことをするでない。だから、わしは海の上は嫌いじゃ」と不機嫌そうに言った。
しかし、「やれやれ、やっと会えたわい」と、疲れているようだが、安堵が混じっている声で言った。
「ウミヘビのばばあ、どうしてここへ?」リゲルが聞いた。
「おまえたちを探していたのじゃ」
リゲルは、また何かを聞こうとしたが、ウミヘビのばばあは、みんなの後ろで出会いの様子を見ていたカモメに声をかけた。
「ありがとうござんした。あんたに出会わないと、途中であの世に行くところだった。
神の思し召しで方角はわかるが、これだけ遠いと体がもたんのでな」
「いいえ、これも神の思し召しというものですわ。昔のように仲間と大きな声で話しながら飛ぶこともできなくて、海面すれすれを1人で飛んでいると、あまり見かけない人が、何かを探すかのように、海から頭を出して、きょろきょろしているのに気づきましたの。
それで、声をかけたのですよ。
すると、あなたは、わたしをじっと見てから、背びれがないイルカを探しているということでした。
びっくりしました。わたしは、それはオリオンという名前がついているイルカですかと聞くと、あなたもびっくりされていましたわ。
わたしも、オリオンたちを探していることを言って、いっしょに探すことになったのですよ」
カモメがそこまで言ったとき、みんなは、何か用事ができたのかという顔でウミヘビのばばあを見た。
ウミヘビのばばあは話しはじめた。
「この頃、と言っても、この2,3ケ月じゃが、夢の中に神が必ず出てきて、わしをじっと見るのじゃ。
わしは、占い師なので、いつもは、『神よ、お困りの方がおられるが、どうしたらいいのか教えてくだされ』と頼むのじゃが、今は引退しているので神を呼びたてることもない。
わしは、思いあまって、『失礼ながら何かお困りでございますか。わしにできることがあれば、どんなことでもおっしゃってくだされ』と声をかけた。
しかし、何事もおっしゃらない。それでも、毎日、毎日わしの夢の中においでになる。何もおっしゃらずに、わしをじっと見ると、すっと消えなさる。
これは只事ではないと思って、最後の最後と思って透視を再開した。
透視は渾身の力がいるので、若いときでも、しばらくは動くこともできないほど疲れるものじゃ。
これで命を落としても悔いはないと、夢の中の神が消えると、すぐに透視をはじめた。
4,5日後、オリオンが浮かんだ。それも毎日じゃ。別に苦しそうな顔をしているわけじゃないけど、わしのほうをじっと見ている。
オリオンたちはもうすぐかえってくるのではないかという予感がしていたのに、これはどうしたことかと怪訝に思った。
わしは、毎日考えた。神は、自分で考えない者は相手にされないのでな。
これから世界は混乱する。それを鎮めるために、背びれのない者が現れる。その者に従えとのお告げと関係があるのか。
やがて、透視の中に出てきたオリオンがすっと消えていくようになった。
わしは驚いた。それは世界が滅亡するかもしれないのに、それを阻止しようとする者がいなくなるというお告げにほかならないからじゃ」ウミヘビのばばあの目は血走り、口はわなわなと震えている。
そして、もたげた頭はゆらゆらと揺れだした。しかし、みんなはどうすることもできない。ただ見ているだけだった。
「神でも救うことはできないのですか?」ようやくペルセウスが口を開いた。
「そうじゃ、神は世界を作っても、自ら救うことはできない。ただ見守るだけじゃ」ウミヘビのばばあは、振りしぼったような声を出した。
「世界は、神が作ったのですか?」
「もちろんじゃ。ただ、順序をまちがえられたようじゃ」

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