シーラじいさん見聞録

   

オリオンは、パパにそう言うと、リゲルを見た。
カモメが追いかけているのがお兄さんにまちがいないだろう?
そう思う
それじゃ、行こう
行こう
話はすぐについた。
リゲルは、パパに、「息子さんを探すのもわたしたちの任務です。この広い世界で見つかるのは奇跡といっていいでしょう。そして、奇跡は次の奇跡を呼ぶかもしれません。それを信じていきましょう」と声をかけた。
しばらくして、パパは、「そこまで言ってくださるのか。わたしたちは幸せものです」と言った。ママと2人の兄弟も深く頭を下げた。
「それじゃ、オリオン教えてくれ」リゲルは叫んだ。
オリオンは笑顔でうなずくと、すぐにジャンプをして方向を変えた。
リゲルたちや家族がその後を追った。ミラも少し離れてついていった。
オリオンは、ケンタウルス座をめざした。この方向にカモメはいるはずだ。
そして、その左にある3等星などの星でリゲルやお兄さんなどのシャチの形を作っておぼえた。
オリオンはほとんど寝ることもなく急いだ。その後にみんな遅れずについてきた。
3日目の早朝、かなりの鳥の鳴き声が聞こえてきたような気がした。
リゲルは、オリオンに近づき、「いつもとちがう鳴き声だな」と言った。
確かに挨拶や、食料のある場所を教えあうような鳴き方ではない。敵を威嚇する鋭い響きがあった。
ペルセウスも、「カモメだけじゃなさそうだね」と近づいてきた。
「もう少し向うのはずだが、お兄さんは戻ってきているのだろうか」
オリオンは、リゲルやペルセウスだけでなく、シリウスやベラも集まってきているのを見て、そう言った。
鳴き声はさらに大きくなってくる。
しばらく進むと、無数の鳥が、あちこちに固まって旋回しているのが見えてきた。
明るくなってくると、カモメに似ているが頭が黒い鳥や、カモメより数倍大きく羽のふちが黒い鳥、体全体が濃い茶色の鳥などもいるのがわかってきた。それらが何百、何千と集まって、一つの塊になっているのだ。
そして、その塊が何百とあり、互いが甲高い声で鳴いて連絡を取りあっているようだ。
誰にとっても、こんな光景を見るのははじめてだった。
オリオンはジャンプをはじめた。リゲルたちは鳥の反応を見ていた。オリオンとおなじようにジャンプすれば、自分たちが探しているイルカとちがうと思われるかもしれないからだ。
オリオンは休むことなくジャンプを続けた。カモメ以外の鳥でも、あのカモメと自分たちが約束した合図を知っているだろうと思った。しかし、誰も降りてこない。
近くにいた鳥の塊はサッとどこかかに行ったかと思えば、しばらくして、また別の塊がオリオンたちの上に来た。それを何回も繰りかえすのだ。
オリオンがジャンプを続けていると、よやく塊の中から一羽の鳥が下りてきた。カモメだ。しかし、あのカモメではないようだ。
数百という鳥も少し下に降りてきて鳴きだした。耳をつんざくような音だ。
カモメは、オリオンの耳元で「あなたを待っていたのよ。すぐに呼んでくるわ」と叫んだ。
そして、すぐに飛びあがった。
オリオンは海に潜った。これではとても話ができないなと思ったのだ。リゲルたちもついてきた。
「あのカモメを呼んでくるようだ」オリオンは説明した。
「それにしても、ものすごい数だな」リゲルは驚いたような声で言った。
弟は心配そうな顔でオリオンを見た。
「お兄さんとはもうすぐ会えるよ」オリオンは声をかけた。弟はうなずいた。
オリオンは、そう言うと、また海面に上がった。
まだあの塊がオリオンたちの上にいた。しばらくするとどこからか鳥が一羽飛んできて、オリオンたちの近くに急降下してきた。あのカモメだ。
オリオンは近づき、声をかけようとしたが、そのカモメは、「どうだった?」と聞いてきた。
リゲルたちは、お兄さんを見つけたかどうかなのだ。
「やはり見つからないので、あなたたちが追いかけてくれている者がお兄さんにちがいないということで家族を連れてきました」鳥の声は少し静かになっていたが、オリオンは急いで言った。
そのとき、パパやママ、兄弟がオリオンの横に来て、カモメに頭を下げた。
「ありがとうございます。息子のことでお世話になっています」パパは声を詰まらせた。
「お兄さんは見つかりましたか」弟が聞いた。
「見つかったわよ。でも前もっていっておくけど、前よりひどくなっているわ」
「えっ!」弟は叫んだ。
「なんとかお家に帰らそうとするのだけど、もう何も聞こえていないようよ。よほど怖い目にあったのね」
「どこにいますか?」ママも心配そうに聞いた。
「もうすぐこの近くを通るはずよ」家族は顔を見合すだけだった。
「一日に何回も円を回っているだけなの。でも、かなり疲れているのが上から見てはっきりわかるわ。
それで、サメなどが近づくと、みんなが下りていって大きな声で鳴きさわぐのよ」
「それで、こんなに大勢にいるのですか」オリオンが聞いた。
「仲間が仲間を呼んで、こんなに大勢になったの。夜でも動ける者はお兄さんの体に乗って様子を見ているわ」
そのとき、空を旋回していた鳥の鳴き声が大きくなった。
「お兄さんが来たようよ」カモメは叫んだ。

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