シーラじいさん見聞録

   

早朝、シーラじいさんたちが広場に行くと、すでに幹部や副官、改革委員会のリーダーたちが待っていた。他の者も続々と集まってきた。
全員集まったのを見ると、幹部は、「シーラじいさん、みんなのことをよろしくお願いします」と挨拶をした。
シーラじいさんはうなずいた。「耄碌(もうろく)して役に立たないが、若い者のはやる気持ちを抑えるようにする。
これは敵(かたき)討ちではないということは言っておくつもりじゃ。そして、もし危険なことになったら、すぐに帰ってくるから安心してほしい」と答えた。
シーラじいさんは、この任務にはまだ反対があることを感じていたから、もう一度「海の中の海」に残る者に自分の考えを話したほうがいいと思ったのだ。
リーダーが、オリオンに近づいた。「必ず生きてかえってこいよ。それまで幹部や副官とここを守っているから」
「ありがとうございます。リーダーもお元気で」
そして、幹部たちは、第一門まで行き、そこでシーラじいさんたちを見送った。
しばらく行くと、シーラじいさんは、「まず城に向え。わしも後から行く」と言った。
全員、それぞれの早さで進んだ。オリオンは、ほぼ一日で城の近くまで行った。
そこから一気に潜った、暗闇の中に黒い影が見えてきた。以前は遠くで潜水艦が見えたが、今はそれもいない。城はそれ自体が巨大な怪物のように静かに立っていた。
ときおり光があちこちで点滅していた。クラゲだ。止まっているかのように見える。危険なことがないようだ。
リゲルたちもどこからあらわれた。「何もないようだな」とリゲルが言った。
「下のほうも見てきたが、誰もいない」とペリセウスが報告した。
「すると、元々ここにいた連中はどうしたんだろ?」シリウスが聞いた。
「クラーケンたちについていったのよ」ベラが答えた
リゲルの話では、ミラは城を中心にして、海の上層を見回っているとのことだった。
3日後、シーラじいさんが着いた。リゲルが、全員を代表して、シーラじいさんに城の様子を報告した。
シーラじいさんは、ミラを含めて全員集まるように言った。
「ここは静かだが、ニンゲンは、どこかで執拗にクラーケンを探しているはずじゃ。
ニンゲンは、そのために、船や潜水艦、あるいは場所を特定するために人口衛星などを使うが、一番注意しなければならないのは潜水艦じゃ。
以前読んだことを思いだしたので、潜水艦についてもう一度話しておく。
一隻ではなくて、潜水艦が集結しているのは、クラーケンについて何か情報があったからと思っていい。
しかし、あまり近づきすぎてはいけない。ボスの場合は、ミサイルが体に命中したようじゃが、今は程度の距離でまでいくと爆発するようじゃ。その爆風で命を落とすことがある。潜水艦は、ニンゲン同士が殺しあう武器の中でも最強のものじゃ。最近の情報はわからないが、潜水艦が敵国に近づき、核兵器を発射すると、どんな大きな国でも壊滅してしまうことができるということじゃ。だから、潜水艦の動きは、仲間の潜水艦にも秘密となっている。ゆえに、最新式のものは、他の国の潜水艦が集まる場所には絶対出てこないはずじゃ。
ただ、性能が上がっていようが、潜水艦は、5、600メートルぐらいしか潜航できない。それ以上は水圧でつぶれてしまう。ミサイルなどもそうじゃ。
城の頂上は海面から800メートルほど下にあるので、ボスは、クラーケンと組みあったまま上に行ったときに狙われたのじゃろ。
おまえたちも、潜水艦に襲われたらまず下に逃げろ。
しかし、ニンゲンは、自分たちが直接目にすることができない海底の様子を知る技術をもっている。それが、先ほど言った人工衛星などを使った技術じゃ。多分、山脈を中心にクラーケンを捜索するにちがいない。
わしらも、それを利用すればいいが、今言ったことに注意することじゃ」
シーラじいさんは、一息入れてから全員を見た。
「見回り人をしていた者は、これからは、その職務を一時忘れなければならない。
おまえたちのように大きな者同士が戦ったり、ニンゲンが襲われたりしている場面に遭遇するかもしれないが、それに介入することはならぬ。
海の平和に寄与するという、自分の任務を忘れないようにすることじゃ。
大きな危険がどこに潜んでいるやも知れぬ。これからは外海というより、未知の世界にいると思って、一瞬たりとも警戒を怠るな。そして、危険だと思うとすぐに帰ってくること」
シーラじいさんが休息のために、そこを離れると、リゲルが中心になって、捜索の具体的な方法について話しあった。
上層は少し明るいので潜水艦などを早く見つけることができるが、サメやシャチなどもいるので気をつけなければならないことや、中層は太陽の光が届かず様子がわかりにくいが、大きい者がいないので危険は少ないなどを確認して、ミラやリゲル、オリオンが、上層を重点的に回る。
その他のペリセウスやシリウス、ベラは中層を担当することになった。ただ、中層は水圧が高いので無理をしないようにとリゲルが注意した。
範囲については、もちろん星座を利用することになった。
しかし、ミラやシリウス、ベガは慣れていないので、リゲルが教えることになった。
星座そのものだけでなく、南十字座を使って方位を知る方法も教えた。
それに数日かけたあと、一人で捜索することになった。

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