お梅(13)
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(194)
「お梅」(13)
「どうかしましたか」お勢さんはお菓子がいっぱい乗っているお盆を持って立っていました。
「すみません。あんまり光っていたので手に取ってしまいました」お梅はあわててそれを元に戻しました。
「そうでしたか。でも、変な玉でしょう。丸い玉を半分に切っただけなのに、後生大事にそんなところに置いておくなんて」
「でも、ずっしりとして宝物のようですね」
それでも、お勢さんは不満そうに、「一度お母様に、『どうしてこんなものを置いておくのですか』と尋ねたことがあります。しかし、お母様は、『お父様に聞いてごらんなさい』というばかりで、そのうちわたしも忘れてしまいました」と笑って言いました。
お梅は元に戻した金の玉を見ながらうなずきました。
「お清。食卓にお菓子と果物を並べてちょうだい」お勢さんはそんなことよりおやつのことが気がかりでした。
お清は並べおわると、りんごの皮をむきはじめました。
お梅は食卓に戻り、「まあ。いい香り。これはりんごですよね」と言いました。「そうです。お父様がお梅さんに食べてもらうように都から取り寄せたものです」
「そうでしたか。こんないい香りがするりんごは食べたことがありません」
お勢さんは食べるようにいったので、口に運びました。「ほんとにおいしいです」
「おばあさんにも食べてもらってください」お勢さんはにっこりして言いました。
それからもほかの果物やお菓子を食べたりして楽しい時間を過ごしました。
「長居をしましたから、このあたりで失礼します」お梅はおばあさんから教えてもらった挨拶をしました。
「そうですか。また遊びましょう」お勢さんはお清に残った果物やお菓子をまとめるように言いました。
門までお勢さんやお母さんが送ってくれました。「ありがとうございました。どうぞ、お父様によろしくお伝えください」と挨拶をしました。
「荷物はお清にもたせます」とお母さんが言いました。
お梅は、「いいえ。重いものを持つのは慣れていますからそれには及びません」と丁重に断りました。
家に帰っておばあさんにおみやげを渡すと、「見たこともないようなものばかりじゃ。これで寿命が延びるわい」と大喜びでした。
しかし、お梅は向こうの家で見たものは言いませんでした。あんなに喜んでいるのに、厄介なことを耳に入れたくなかったのと、もう少し自分で考えたかったからです。
あの半分の金の玉はかんちゃんに返したものと同じものだ。つまり、かんちゃんはあの家の子供だ。お勢さんの家は戸田といって、近在どころか都でも知られた名家だとおばあさんが言っていた。
お勢さんのお兄さんは新次郎という名前だと聞いた。すると、かんちゃんはどういう名前かしら。寛太郎か勘一郎か。
しかし、あの家はお金がいっぱいあるのにどうしてこんなことになったのだろうか。つまり、家にとってはいらない子供だったのか。そうであっても、山に捨てなくてもいいはずだ。
お勢さんをはじめ、お父様やお母様は優しい人ばかりだと思うと、お梅は苦しくなってきました。お梅は頭を振って苦しさを払い落としました。
そうだ!今度会ったら、あなたは戸田さんですかと聞こうと思いました。
でも、分からないかもしれないし、もし分かったら里心がつくつくかもしれない。それもやめたほうがいい。また、苦しくなってきました。
おばあさんは、大人になれば分かることがあるといつも言っています。
これは大人のことなのだ、残念ながら。今は洞穴でかんちゃんに会えば、ほしいものはないか尋ねるだけにしようと決めました。
すると、お腹がすいてきました。お勢さんからもらったお菓子を食べるためにおばあさんがいる部屋に行きました。