シロート
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「シロート」
この前、久しぶりにタクシーに乗った。今は道で手ぃ上げてもタクシーは止まらん地方都市にいる(人口増加率日本一やけど)。JRの駅では客待ちのタクシーはいるけど、「流し」はいてへんのでな(安心して道端でラジオ体操ができるとゆうわけや)。
三宮駅からモザイクまで乗ったんやけど、気に食わんかったら初対面のもんでもどなるくせに、元々気が小さいので、タクシーに乗るときは、「近うてすんまへん」と挨拶することにしている(「こりゃ、3000円ぐらいかかるんとちがうか」と思うても)。
50代の運転手は、雨の日やのにテンションが高かった。乗ったとたん、「お客さん、甲子園やってまっせ」と声をかけてくる(「それかいな」と思うた。野球に興味ないもんも他のファンもいるやろけど、こんなおっさんが阪神ファンでないのはありえないと判断したんやな)。客とゆうより話し相手を待っていたような感じや。
阪神も、朝から雨やったけど、巨人相手で、しかも昨日勝っているのでやりたかったんやろ(売上げが全然ちがうやろから)。
「決定権は主催者側にあるからな」とゆうと、待ってましたとばかり、信号ごとに後ろを振りむいて話をする。
「巨人より金使うてまんねん。せやけど、金(かね)ちゃんがなあ、代打で1割でっせ。金ちゃんはずっと出とかんとあかんタイプや。代打はシロートや」
「今解説している掛布はえらい目に負うているな」ぼくも水を向ける。
「日テレと契約していたけど、クビになって、家取られて。拾うてもらうだけでも御(おん)の字でっしゃろ」
「いろんなもんに手ぃ出したからな」
「この前死んだ小林も、水商売で失敗しよりましてん。それから、藤田まことは借金10何億をして働きすぎや。千昌夫かって・・・シロートが商売に手ぇ出したらあかん」
そして、話は大相撲賭博へ向かう。「あんなんで出稼ぎの外人に勝てまっかいな。みんな中学しか出てへんから、何にも知らん。相撲以外はシロートや。特に北の湖」北の湖を乗せたことがあって、いろいろ聞いたけどやめとく。
まるで運転するスポーツ新聞や(昔、巨人には「投げる不動産屋」ゆうのが何人かいたけど)。
ぼくは、運ちゃんの相手をしながら、外の景色、メーターの今の金額、財布の小銭を確認して、大体なんぼになるか考える。タクシーに乗るときには昔からしている。
目的地に着くと、「お釣りは取っといて」とぱっと降りたいのや。
要するに、5%ぐらいのチップを渡したいのやけど、そのときは10円玉、50円玉ばっかりで、100円玉がない。そして、1200円で止まった。
しゃあない。2000円払うと、800円おつりをくれた。
勝負に負けた気分や。それやったら、おつりから100円でも200円で渡しといたらええやないかとゆう向きもあるやろけど(ぼくも、今それもありやなと思うたけど)、「おつり取っといて」とゆいたのや(「今日(きょうび)、100円、200円もうても、運転手でも喜ぶかいな」とゆうのが大勢やろけど)。
藤山寛美は、着物でも天ぷらでもその店のもんを全部買うらしいし、「たばこ10個買うのやったら、一軒で買うのやなくて、10軒の店で1個ずつ買うておいで」と弟子に教えていたらしいな。
ぼくは、名前を売る商売やないのやから、そんなことはしたことないけど、タクシーに乗るときは気を使う。それにしてもビンボー人の「ええかっこしい」なんやろ(500円は惜しいもん)。
昔ながらのあのプロの運転手の指摘どおりに(相手を見て黙っているか、野球の話をしようかと決める)野球一つでも、レギュラーはええけど、代打はシロート。(同じ外野でも)ライトは慣れているけど、センターはシロートがいるもんや。
そして、人生でも、プロ、シロートと細かく分かれているのやろ。
攻めのシロート、守りのシロート、金持ちのシロート、ビンボー人のシロートとゆうように(ビンボーのプロのもんが、金持ちになるとシロートやから、またビンボーになるけど、プロやからええやろ。ややこしいけど)。
この前、若い嫁はんをもろうた山本文郎がリストカットしたと週刊誌に出ていたけど(山本は真面目なんやな)、小川宏、高島忠夫などが「うつ」になっていくやろ(小川宏は、電車が横を通ると飛びこみたくなると証言している)。
今の状況(フットライトが消えたり、年を取っていくことなどに)にシロートやからか。
そんなにあせらんとシロートはシロートなりの生き方をせんとあかん。たいていのもんは、さすがプロと思われるもんをもってへんのやから。