シーラじいさん見聞録

   

オリオンたちも急いだ。怪物にすぐに戻るから言っておいたが、それを理解してくれたかどうか気になるからだ。もしどこかに行ってしまったらニンゲンを見つける時間の損失ははかりしれない。
しかし、どのくらいあの岩の奥に閉じ込められていたかわからないが、あの喜びようはすごかった。ぼくらに感謝しているだろう。
そして、ぼくらがニンゲンについて関心をもっていることも覚えてくれているだろう。
うまくいけば、ぼくらをそこに案内してくれるはずだ。ただ、クラーケンたちがうろついているから、それが心配だ。オリオンとリゲルはそう思いながら海底をめざした。
若いシャチは自分たちが行けばニンゲンがどうなっているかすぐわかるだろうという楽観的な考えをもっていた。
ただ、洞穴は10か所近くあったので、怪物が待っている洞穴は分担を決めたほうが早く探せるだろう。若いシャチもかなり慣れてきたので、任せても心配ない。
リゲルとオリオンは怪物がいないか探しながら、海底をめざしたが、それらしき影はない。
それで、まず怪物が閉じ込められていた洞穴に向かった。そこには誰もいない。
リゲルは、「いないな。それじゃ、別れて探そうか」と言った。
オリオンも、若いシャチに、「ここを起点にする。きみたちも決められた方向をゆっくり進んでくれ。もし何かいたらそれに近づくんだ。それが怪物でもぼくらを襲うことはしないはずだ。すぐに行くと伝えてくれないか」と言った。
「わかりました」若いシャチ4人は、二人ずつに分かれて東西に行った。そして、リゲルは北に、オリオンは南に向かった。
若いシャチに何かあれば、どちらかがすぐに行けるように決めたのだった。
リゲルたちはそれぞれの方向にゆっくり進んでいった。
2組に分かれた若いシャチは警戒しながら進んだ。緊張で苦しくなってきたが、自分だけが途中でギブアップするわけにはいかないと自分に言い聞かせた。
「おい。見ろよ」西に向かう若いシャチの一人が仲間に言った。
仲間はそちらを見た。遠くで何か動いているようだ。「大勢はいないようだな」、「それなら怪物か」二人はそのように合図を交わしながら進んだ。
やがて、暗闇の中で大きなものがゆらゆら動いているのがわかった。ときおり、叫ぶ声が聞こえる。それが波となって伝わるのだ。かなり大きな波だ。
「怪物だ!」二人は同時にそちらに向かった。そして、「オリオンが来ています」と叫んだ。
それが分かった怪物はこちらに向かってきた。影がどんどん大きくなる。
「どうしよう」二人は顔を見合わせた。怪物は自分たちの仲間だと分かっていたが、叫び声を聞いていたので、襲ってこないだろうなと思ったのだ。
しかし、自分たちがしっかりしなくてはニンゲンを助ける作戦が成功しない。
2人は自分たちからも近づいた。巨大な影が目の前にいた。
「オリオンが来ています。呼んできますからここで待っていてください」と叫んだ。
ウオーという叫び声が聞こえた。「わかってくれたんだ。オリオンを呼びにいこう」
二人は急いで、集合場所になっている怪物が閉じ込められていた洞穴に向かった。
まだ誰も帰っていない。「どうしよう?探しにいこうか」、「いや。あまり動くと体がもたなくなる。もし行くのならどちらか一人にしよう」
そう話しているとリゲルが戻ってきた。二人は、「怪物がいました!」と叫んだ。
「そうか!おまえたちは西に行ったんだな」
「そうです。ここから10分ほどのところです」
その時、東に行っていた若いシャチ二人も戻ってきた。「おまえたちは、西に行け。オリオンが戻ってきたらすぐに向かうから」若いシャチ4人は急いだ。
リゲルはオリオンが進んだ北方向に行った。すると、戻ってくるオリオンに出会った。
リゲルは、怪物がいたことを伝え、そのまま西に急いだ。いくつかの影を感じた。「あそこだ!」二人はそちらに向かった。そして、「遅れました」と言った。
怪物はウオーと叫んだ。オリオンは、「洞穴はどこ?」と聞いた。
怪物は向きを変えた。そして、「ここだ!」というようにまた叫びだした。
しかし、そこは、巨大な崖が広がっているだけだ。怪物はそこにぶつかろうとしたが、オリオンはあわてて止めた。
上の方はよく見えないが、どうも崖が覆いかぶさっているように思える。
もし怪物が崖の下に体当たりをすれば、上から落ちてくるかもしれない。
ここが、怪物が言うように洞穴ならば、出入り口はどこだろう?
オリオンは近づいて調べた。センスイカンが入るような穴はない。オリオンは、「ここが、きみがいた洞穴か?」ともう一度聞いた。怪物はもう一度、「そうだ」と言うように叫んだ。
あの洞穴がどうしてこんなことになってしまったのか。自然になったとは考えられない。シーラじいさんがいっていたように、海底地震があればかなり広い範囲に影響が出るはずだ。
オリオンがそう考えていたとき、「やはりきみが考えているように、クラーケンはニンゲンを外に出したくないようだな」とリゲルが言った。
「そう考えるのが自然だな」オリオンは答えた。
「でも、やっかいなことになったぞ」リゲルは苦しそうに言った。

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