シーラじいさん見聞録

   

オリオンはしばらく黙っていたが、「とにかくもう少し考えてみよう」と言った。
4頭の若いシャチも周りを取り囲んでいた。1頭のシャチが、「ここでまちがいないですか」と聞いた。
「それはまちがいないだろう。様変わりしているので、ぼくらも最初わからなかったが、怪物は迷っているようには思えないから」オリオンはすぐに答えた。
別のシャチが、「この岩の奥にセンスイカンが入り込むような穴があったのですね」
「そうだ」
「でも、今は巨大な岩が覆いかぶさっている」
「誰がそんなことをしたのだろう?」
「クラーケンに決まっているじゃないか」
「この奥にニンゲンがいるのですね」
「そうだ。これをどけなければならないのだが、今はどうしたらいいのかわからない」オリオンは言うも丁寧に答える。
「ニンゲンも空気が必要ですよね」
「この奥には空気があったとリゲルとオリオンから聞いたじゃないか」
「そうだった。それなら、この岩を開けさえすればいいのだ」
「おまえな。そんなことは分かりきっているじゃないか。それができないからリゲルとオリオンは苦しんでいるんじゃないか」
「そうなんだけど、一応確認しているだけだ」
「おまえたち、少し黙っておけ。リゲルとオリオンは考えているんだ」別の仲間が注意した。
「そのとおりだ。とにかくどの穴かわかったんだ。後はこれをどうするかだ」オリオンはみんなだけでなく、自分に言い聞かせるように言った。
「岩をもっと調べましょう」一人の若いシャチはオリオンの言葉に勇気づけられたように言った。
逆にオリオンはそう答えたものの海底から20メートル以上の高さで岩が重なっているのを見て絶望的な思いにとらわれていたが、若いシャチの提案に、やらなければはじまらないという気持ちを持つようになったのだった。
「そうだ。そうしたら何か分かるかもしれない」オリオンは言った。
6人は巨大な岩を手分けして調べつくした。自分たちにより大きい岩が重なっている。これをどけられるかのか。
「オリオン」一人の若いシャチが岩の上部を調べていたオリオンのそばに来て、「少し見てほしいところがあります」と言った。
オリオンはそのシャチについていった。若いシャチは岩の中頃で止まり、「ここを見てください」と言った。
オリオンはゆっくり見た。いわ確かに横から見ると高さがちがう。どう見ても同じ岩とは思えない。
「ほんとだ。2枚の岩が重なっているようだ」
「横を見てください」
「下の岩が4,50センチはへこんでいる」
「左右も見てもらえませんか」
オリオンはゆっくり動いた。幅は3メートルぐらいあるようだが、左右はともに縦に岩が重なっているようだ。しかも、両方とも間にある岩よりもへこんでいる。
つまり、真ん中の岩は入り口を塞いでいるようになっている。
「なるほど」オリオンは若いシャチの意図がわかった。
「わかってくれましたか」若いシャチはうれしそうに言った。
「よく見つけたな」
「ここを何とかできませんか。怪物に体当たりしてもらうとか」
「しかし、上には岩がせりだしてきている。衝撃がきついと上から落ちてくる恐れがある。そうすると、元も子もなくなるかもしれない」
「確かにそうですね。他に方法はないでしょうか」
すでに他のものも集まってきていた。そこをさわっていたリゲルが、「この岩の表面はもろい。ここをはがすことはできなないだろうか」と言った。
全員それを確かめた。「ほんとだ。みんなでやればなんとかならないか?」別の若いシャチが提案した。
「どうするのだ?」
「オリオンが考えてくれる」
オリオンは若いシャチに言われるまでもなくすでに考えていた。
「きみたちにできるか」
「やります。どんなことでもやります」
「みんなで確かめたようにこの部分は柔らかい。ここに体当たりすれば、はがれるかもしれない。できるか」オリオンは若いシャチに強い口調で言った。
「やります」
「できます」
そのとき怪物が来て自分もやるというようなジェスチャーをした。
オリオンは、「ありがとう。でも、ただきみの力でやると上から岩が落ちてくるかもしれない。しばらくは様子を見ながらやるほうがいいと思う。
もちろんきみの助けは絶対必要になるからそれまで待っていてくれないか」と説明した。
怪物はオリオンが話すことがよくわかるようになったので、うなずいて、そのときまで自分はきみらを守ると答えた。
オリオンは、若いシャチに、「上に上がるまで作業を確認しておこう」と言った。
そして、自分で見本を見せることにした。若いシャチが見つけた段差がある場所にぶつかった。確かに柔らかいようだが、何か変化はない。
しかし、みんなにその感触を感じさせるためにぶつかるように言った。
リゲルをはじめ若いシャチはぶつかっていった。同じ場所にぶつかっていったので、少し亀裂ができたようだがねだったような変化はない。
しかし、ぐずぐずしておれないので、「よし。いったん戻るぞ」オリオンはみんなに言った。

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