ピノールの一生(1)

      2017/05/22

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(89)

「ピノールの一生」(1)
ゼペールじいさんは大きなためいきをつきました。最近、知らぬうちにそうすることが増えていました。そして、その次は必ず独り言を言います。
「平均寿命が130を超す時代なのに、たかが100ぐらいでへこたれるのは情けないことじゃ。やはり人間は、最後には気持ちのもちようだとわかるわい」元科学者らしい分析でした。
「女房が死んで10年立つのに、寂しさはますます募る。そうか!来年はいよいよ30世紀になるので、『一緒に30世紀を迎えたいものですね』と言っていた女房を思いだすためだな。
それにしても、地球は毎年寂しくなる。余裕がある者は地球を離れていくし、そうでない者でも北極圏に移住するようになった。
北緯30付近でじっとしているのはわしらのようなとしよりだけじゃ。
それはそうじゃ、温暖化で陸も海も干しあがったからな。これで、新しい太陽エネルギーが発明されなかったら、人類は絶滅まちがいない。
グリーンランドに移住した息子と娘は、それぞれそちらで結婚したが、ときおり顔を見せに帰ってこいと連絡しても、どちらの孫も、おじいちゃんの家は暑くて外に出られないからつまらないと言って、まったく帰ろうとしない。
ああ、人間とは何か。科学とは何かを若いときからもっと考えておくべきだったな。
科学のためにがんばろう、科学さえ進めばすべて解決するのだと思い、研究に没頭する人生じゃった。しかし、老いさらばえた者が今さら何を言っても手遅れじゃ」
そのとき、誰かが自分を見ているような気がしました。そちらに目をやると、ばらばらに分解されたロボットの部品が山積みにされている物置の方からでした。
目を凝らすと、部品の山から転げおちたロボットの顔がおじいさんを見あげているようです。
「頭脳回路はすべて抜いてあるのにどうしたことか。まるで生きているようにわしを見ておる」
ゼペールじいさんは、そのロボットの頭を山の上に戻し、顔を反対にしました。
「確かにロボットがいなくてはどうすることもできない。大昔は、産業用とか介護用とかに分かれていたそうじゃが、この数百年は、人間に近いロボットが作られるようになり、一見して人間かロボットかわからないようになった。わしも、それには、わしも少しは貢献したじゃろ。
そういうことでは、ここに眠っているのはかわいそうなロボットたちじゃ。頭脳は劣っていないのに、流行遅れだとしてお払い箱になったのだから。
そうか!わしも、最新の技術についていけないためにお祓い箱になったのじゃった。
まだ自信があると言ったが聞いてもらえなかった。
ここにいるロボットもそう思っている者がいるじゃろな。置く場所に困ったから仕方がなかったが、ばらばらにして申しわけなかった。
せめて、元の姿に戻してやろうか。今はわし一人じゃから、5人でも、6人でも大丈夫じゃ。
ゼペールじいさんはそう言って立ちあがりました。そして、もう一度物置に言って、山から部品を選んで、分類しました。
1年後、新しい部品を買うことなしに、寄せ集めの部品でロボットができました。
一見してロボットとわかるどころか、大きさも色もちがうロボットが5体できました。
「まあ、どこか行くことはないからこれでいいか。本人がいやだと言えば、また部品に戻してやればいいのだから」そう考えて、すぐに行きかえりそうなロボットをピノールと名づけました。他のロボットは頭脳回路が動かないので、そのままにしておきました。
「おまえはピノールじゃ。そして、わしはゼノールじゃ」
体のあちこちのライトが点滅しました。しかし、返事がありません。「失敗したかな」と思ったとき、「はじめまして。ピノールです」という声が聞こえました。まじめそうな声です。
「どうやら成功したようじゃ」と思ったとき、そのロボットは、「ゼノールじいさんと呼んでいいですか」と言いました。
「かまわないぞ。確かにおまえのパパぐらいの年死じゃないからな」
「いや、そういうわけではありません。やさしいそうなおじいさんだなと思ったものですから」
「わしをじっと見ていたようだったから、おまえを顔にすることにした」
「ありがとうございます」
「よりによってこんな貧乏な家に来てもらって申しわけないと思っとる」
「滅相もありません。ぼくに命を与えてくださっただけでも感謝します。どんな用事でもしますから、遠慮なくお申しつけください」
「おまえも二度目の人生じゃ。ゆっくりしてくれたらいい」
「いや、どうしてもお礼をしたのです」
「そうか。それなら庭の手入れをしてくれるか。暑くて外に出られないので、草は伸び放題じゃ」
「わかりました」
ピノールは、すぐに外に出て、懸命に草を取りました。その日の終わりには見事な庭に生まれかわりました。それから、毎日、料理や掃除をしました。
ゼノールじいさんが風邪をひいたときは、休むことなく看病もしました。
ゼノールじいさんは、ためいきをつくことがなくなりました。

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