シーラじいさん見聞録

   

「まちがいありませんか?」リゲルは大きな声で聞いた。
「まちがいありません。ここで仲間になったものが、見たことがないほどの数でこちらに向かってきていると教えてくれました。
やつらは、そう急いでおらず、あたりの様子を見ながら向かってきているそうです」
「どこにいますか?」
「もうすぐ、最初にシーラじいさんたちがいた場所あたりに着くようです。仲間が空から見張っています」
「シーラじいさんたちは知っていますか?」
「報告しました。それで、シーラじいさんから言付けがありまして、自分たちはアイリッシュ海の奥に避難するから心配するな。おまえたちも十分気をつけろということです」
「わかりました。ニンゲンはもう気づいているだろうから、そろそろヘリコプターなどが向かうだろう」
そう言っていると、ヘリコプターの爆音が聞こえだした。
「それじゃ、あなたたちは、シーラじいさんがいる場所に戻って警戒してくれませんか」リゲルは、慣れないものを置いてきたという思いで少しあわてたが、シーラじいさんがみんなを見てくれているようなので少し安心した。
「ぼくらも戻りましょうか」シリアスが聞いた。
「ヘリコプターの数も増えてきているようだな。潜水艦も集まってきているだろうから、あわてるのは危険だ。
まず、イギリスの岸のほうに行こう。このあたりは町がなさそうだから、クラーケンも素通りするだろうから、そこで様子を見よう」
3人は急いで、グレートブリテン島、つまり、イギリスの南側に向かった。
夜になると、リゲルたちがいる近くでも、ヘリコプターが旋回するようになった。
「いよいよこのあたりにお出ましになったようだな。そろそろシーラじいさんたちを探しにいこう」
3人は、海と空の様子を見ながら戻っていった。空が明るくなりだしたころ、アイリッシュ海の南端に着いた。そこを右に回り奥に向かった。海は静かだ。何かあったような気配はない。
このまま行けば、少し狭っている海峡があるはずで、シーラじいさんたちもそこまで行っていないだろうから、そろそろ会えるかもしれないと思っていると、またカモメが急降下してきた。
「シーラじいさんたちはどこにいますか?」リゲルはほっとしながら聞いた。
「大変なことが起きました」カモメは苦しそうに言った。
「どうしました?」
「仲間のシャチが2人殺されました」
「えっ、何があったのですか」
シリウスとインド洋からのシャチもこわばった顔になった。
「速く避難したのですが、北からもクラーケンが来ていて、みんなに襲いかかったのです。それで、逃げおくれたものが」
「そうでしたか。みんなどこにいますか」。
「わしらが大きく旋回すれば、姿をあらわす約束です」
カモメは飛んでいった。
しばらくすると、ベラが飛んできた。「ごめんなさい。わたしが守らなければならなかったのに」
「けがをしなかったか」
「わたしは大丈夫。シーラじいさんと手紙の整理をしていたけど、何かおかしいと思って上がったの。
すると、仲間が10頭ぐらいのクラーケンに囲まれていたので、助けようと、背後からぶつかっていくと、クラーケンはわたしを襲いはじめた。みんな助けようとしてくれたの。
しばらく戦いが続いたが、お互いが少し離れると、二人が動かなくなっているのがわかった。それで、みんなで二人をこちらに運んだけど生きていなかった」ベラは悔しそうに言った。
「よくやってくれたよ。そうしなければ、みんなやられていたはずだ」
「他のものは?」
「シーラじいさんが見ています」
他のものも来たが、リゲルが慰めたが、二人のことがショックなのかうなずくばかりばった。
カモメから話を聞いて、シーラじいさんが上がってきた。
「まさか背後から来るとは思わなかったので、用心するように言わなかったわしの落ち度じゃ」
「それじゃ、北からも攻撃をしかけてきたようですね」
「そうじゃろ。ドーバー海峡の警戒が厳しので、ここを通ったのじゃろな」
「ぼくらを見つけたやつらが、ついてこいと言ったが、ぼくらは断った。すると、襲ってきたんだ。ベラが自分の自分のほうに引きつけてくれていたので、ぼくらを向かっていったんだ」
「必ず敵(かたき)を討ってやる」若いシャチたちは口々に思いを述べた。
その様子を見ていたリゲルはしばらくここにいなければならないなと思った。
それにしても、またクラーケンがあらわれたぞ。カモメがペルセウスにも連絡すると言っていたから、今頃はその様子を探っていてくれるだろう。
ただ、これで、しばらくはオリオンは海に連れていかれないだろう。
「シーラじいさん、これからどうしたらいいでしょう?」
「おまえも気がついているように、みんなは動揺している。まず落ちかせなくては、臆病になったり、自暴自棄に走ったりしがちじゃ。
わしらには、アントニスたちやカモメという仲間がついているということをもう一度教えておいてくれ」

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