シーラじいさん見聞録

   

「シーラじいさん。それなら、ベガが見た者はその穴に住んでいるとしか思えないのですが」リゲルが聞いた。
「うむ、見まちがっていなければそうじゃな。しかし、そんな場所に住むことができるかどうかはわからん」
ペルセウスは、ここぞとばかり言った。
「ベガが何かを見た穴が、一番大きく、においも一番きつかったような気がする。5,6個しか見つけられなかったが」
「それと、穴がある山の上には川が流れているように思う」シリウスが言った。
「ほんとか」リゲルが叫んだ。
「はっきりとは聞こえないが、無言の音というようなものをずっと感じていたんだ」
「おれにはわからなかった」ペルセウスが言った。
「そんなような気がしただけかもしれないが」
静かになった。「シーラじいさん」リゲルが言った。
シーラじいさんは、黙ってリゲルを見た。
「見てきてもいいですか?」リゲルが聞いた。
シーラじいさんは、「そう言うと思っていた。そこまで調べているのじゃたら、危険な目に合わないじゃろ」
「ありがとうございます」思わず全員が声を出した。
「ただし、絶対穴には近づくな」シーラじいさんは、もう一度念を押した。
「はい」という声で、みんなは出発した。急いではいたが、目撃したことや、自分が推理していることを話したくてたまらないようだった。
「あれは巨大な魚にまちがいないわ」まずベラが言った。
「ほんとに硫化水素生物と見まちがっていないか?」ペルセウスはからかうように聞いた。「穴のまわりにいる生物は、穴から離れることないでしょ?あれは相当上まで行ってから、また穴に入ったのを見たのだから」ベガは譲らない。
「それがクラーケンの部下ならおもしろい。ようやくあいつらがいる場所を見つけたんだから」シリウスも興奮して言った。
「それにしても、ものすごい場所にいるんだな」リゲルが言った。
「シーラじいさんの話では、硫化水素を吸うと、一瞬にして死んでしまうそうだ。
しかも、熱は400度以上あるようだ」オリオンも言った。
「400度?」ペルセウスが聞いた。
「それに触れるだけでも、体は焼けただれてしまう」
「やつらは体が大きいというだけでなく、そういうものにも耐える能力があるのだろうか」リゲルが言った。
「しかし、そうであっても、前にようにこちらにおびきよせたら、負けることはないよ。
大きな体を利用したらいいのだ」ペルセウスは意気軒昂だった。
翌朝2,300メートル先を進んでいたミラが止まった。穴の上に着いたようだ。
近づくと、「着いたよ。まず墓場のほうに行こうか」ミラは、そう言うと姿を消した。
他の者も急いだ。リゲルは、「安全な場所」を出てから、若者に訓練をしたので、自分の体力にも自信がもてるようになっていたはずだが、水圧の壁に押しかえされることがあった。
少しあせったが、オリオンが待っていてくれたので、海面に戻ってから再び壁にぶつかっていくことが何回かあった。
ようやくミラたちが墓場といっている場所のすぐ近くまで行くことができた。
しかし、何も見えない。暗闇が何重にも重なっているようだ。全く音も聞こえない。
ペルセウスは、リゲルとオリオンに、もっと深く潜るように合図をした。
そのまま潜っていくと、暗闇が少し薄くなっているように感じてきた。普通はそんなことはないのだが、どうしたのだろう?
オリオンは、もっと潜った。白いものが浮かんだ。あれが骨か?
骨ならものすごい量だ。2,3キロ平方はあるかもしれない。
ぼくらは広い海のどこかで生まれ、どこかで死ぬ運命だ。親兄弟のそばで死ぬこと少ない。それなのに、これはどうしたことだ。
墓場というより地獄という風景だが、ここに集まる原因があるはずだ。
骨が累々と重なっている。それが一つの生き物ようにさえ見える。
リゲルがもっと近づこうと言ってきた。まるで白い山のようのようだ。
ああ、確かに何かが骨と骨の間で動いている。かなり大きなものもいる。骨を食料としている者たちだ。
くさい。これは硫化水素か!オリオンが、そう思うやいなや、誰かが、戻れと叫んだ。
一目散で海面に上がった。リゲルは全員が無事なのを確認して叫んだ。
「すごい。きみたちが言っていたとおりだ」そして、「あれは、硫化水素のにおいなのか?」と聞いた。
「いや、もっとくさい。あんなものじゃない。ただし、においは同じだ」ペルセウスが答えた。ミラ、シリウス、ベガも同じ意見だった。
「ところで、川に気づいたかい?」シリウスが聞いた。
「いや、わからなかった」オリオンが言った。
「ぼくは、川に気をつけていた。穴のほうから墓場に向かって流れている。そして、墓場の上で、何かにぶつかったように流れが止まる。
行き場のない流れは下に向うようだ」
「それなら、直角にも川が流れているのよ」ベガが言った。
「ベガが言うとおりだ。穴から出ている硫化水素に殺(や)やられた者が川の流れに乗ってきて、墓場の上で沈んだのだ。それで、墓場ができたのだ」ペルセウスが推理した。
「骨はミラの種類のものだ。それが穴の近くで死ぬとは硫化水素は猛毒だとわかる」
リゲルが言った。

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