全部自分のもん

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「全部自分のもん」
今年から20年ぶりに三田市から堺市で生活することになった。堺は元々自宅があって商売のために三田で家を借りていた。自宅には家族がいるから盆や正月には帰っていたが、ずっとここにいるのは久しぶりやから少し戸惑った。
まず住宅が密集しているとゆうことは人が多いとゆうわけや。人が多いとゆうことは車が多いとゆうことで、家の近くは道が狭いので一方通行だらけや。
50年近く前に家を建てたので、それはずっと一緒やけど、この20年はベッドタウンに住んでいたので感覚が戻らん。
三田は人口の増加率は何十年も日本一で、今もどんどん開発している。アウトレットがあるから関西のあちこちから人が来るけど、その辺以外は昼間の道はすいているので、どこでもシューと行って、行きすぎたらテキトーにUターンしたらええ。
慣れるしかしゃあない。しかも、緑内障で視野がかなり欠けているので必要最小限の時しか運転せえへんけど、ようやく慣れてきたようや(デーブ・スペクターのようにゆえば、「住めば都はるみ」やな)。
70を過ぎたら医者も大事や。ぼくの場合は、緑内障で手術もすんでいるけど、眼圧などを定期的に見てもらう眼医者。心房細動がひどくて(一日何回も3秒ほど心臓が止まっているらしい)、心臓専門の医者、それに、歯がガタガタやから心よく保険で入れ歯を作ってくれる歯医者(高い入れ歯を売りこむ歯医者が多いからな)。この3人を捕まえておく必要がある。
そのためには、自分に合った医者を探すドクターショッピングが大事や。昔のとしよりは(ぼくは今のとしよりやけど)、一人の医者にとことんついていく(大きな病院の医者が別の病院に行ってもそこに行く)。もちろん盆暮れの心づけは忘れへん。そんなん何の意味があるねんゆうても聞かへん(開業医が、受付に、「心づけはお断りします」と書いていても、断った医者はいない)。そんなことしていても最後は死ぬ(当たり前か)。
そうゆうことで、堺に帰ってきてからは、家内に聞いたりネットで調べたりして探しまわった。
ホームページを信用しすぎたらあかんし、口コミでぼろくそに書いてあるのもほんまかどうかわからん。要するに、いっぺん行ってみることや。
最初の眼医者なんか、検査して、「半分見えてへんやないか」とゆいやがった。もうちょっと言い方があるやないか。「フットボールアワー」の後藤が岩尾に、「禿とるやないか」とゆうようなもんや。
ある内科の医者(心臓は得意ではないようだったので通院はやめたけど)に、今までの病気や生活の話をしたとき、「これからの時間は全部自分のもんでよろしいな」とゆわれたことがものすごう心に残った。
いろいろ病気を抱えているけど、それと関係があるのかどうかわからんけど、「感情失禁」とゆうのもある。「尿失禁」みたいやけど、要するにすぐ泣く。誰かがぼくにやさしい言葉をかけてくれたことを、また誰かが誰かにやさしい言葉をかけたことを人に話すと鳴き声になって話せなくなるのや(三田で一緒にいたもんは、「自分がかわいそうなだけやろ」とからかっていたけど)。
「これからの時間は全部自分のもん」は何にもすることがない年金生活者に対する唯一の慰めの言葉やろか。年金生活者にはいつもこの言葉を使うのか。激励なのかからかいなのか分からんかったんで自分の心がきょとんとしてわけや。
2、30年前まで仕事で走りまわっていた時は、「年いったらゆっくりしたいなあ」とたまに思うたことはあった(その時でも、結局は金儲けが優先で、ほんまに事業やめる気はなかった)。
それが「今でしょ!」や。誰にも時間を取られることはない。1日24時間。1440分全部自分のもんや。
まん延防止のために、夕方でもまだ明るいのに雨戸を閉めて、一杯やっても誰からも怒られへんけど、せっかく小さな子供に「おっちゃん」と呼ばれて、数年後には20代の女にも、「おっちゃん」と声をかけられ、この前なんか50過ぎのおっさんが「おっちゃん」と話しかけてきやがった。そんなふうに傷ついて男はおじいになったんや(女も同じようなもんか)。
これもつい最近、電車に乗っていたらサラリーマンに席を譲られたことがあった。これにはショックを受けたが、「あのサラリーマンが電車を降りるときで、たまたまぼくが前に立っていたから声をかけてくれたんや。
サラリーマンがまだ乗りつづけて立っていたらまちがいなくぼくは誰の目にもとしよりと思われる姿かたちになったわけや。最終判定は今回は見送りにしよう」と決めた(大層な)。
時間は全部自分のもんでも自分を甘やかしたらあかんと肝に命じている。
三田で一緒にいたもんがあの世で待っているから早く行けたらそれはそれでええけど、うわさ話が好きやったから、みやげ話をどっさりもっていったら喜ぶやろ。
それなら、もう少しこの世でうろつこか、一方通行をまちがえんようにして。

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