ピノールの一生(8)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(101)

「ピノールの一生」(8)
「デッキなどには出ないようにしていたが、もう錆びてきたのか」ピノールは愕然としました。
ゼペールじいさんが心配していたように、ピノールは何百年も前のロボットですから、高温の海面から立ちのぼる水蒸気が混じった風には耐えられなのです。
「これから、モイラの居場所を探さなければならないんだ。どうしよう?」と考えたピノールは、船員にボンドを貸してもらえないか頼みました。そして、それを、あらゆる関節に塗りこみました。
「これで、しばらくは大丈夫だろう。体に錆が浮いても問題はない」そう思って、乗船口から外に出ようとすると、スタッフに、「どこへ行くんだね?と呼びとめられました。
やはり、そうか。ここは有数の避暑地だから、厳しい警戒態勢が敷かれていると聞いていたとおりです。
「友人がここで働いていて、遊びに来ないかと招待してくれんです」ピノールは笑顔で答えました。
「どこの家だ?」
「マクベスさんです。友人がもうすぐ迎えに来てくれます」
スタッフは、ピノールの対応に不審なものを感じなかったので、「そりゃ、悪かった。念のために、身分証明書を見せてくれないか」と聞きました。
それを確かめてから、「ここで待っていたらどうだ?外は暑いぜ」と言ってくれましたが、「いや、もうすぐ来るでしょうから、外で待ちます」と言って、外に出ました。
そして、スタッフがこちらを見ていないのを確認して、速足で港を離れました。
「よし、うまくいった。山のほうに行って潮風を避けなくては」車以外、動く者がいないストリートを走って、別荘に向かう山道に着きました。そして、少し速度を緩めました。
ロボットですから疲れることはないのですが、あまり急ぐと、どこからか逃げてきたのではないかと思われるとまた時間がかかるからです。
山のほうを見ると、無数のカラフルな別荘が並んでいます。ここのどこかにモイラが閉じこめられているのだな。探すのは時間がかかるなあ、すでにモイラの緊急装置のにおいは切れているからどうしたらいいのだろうと思案していると、いいアイデアが浮かんできました。
地図を確認すると、ダウンタウンに下りる道は6本あります。いずれそこを通るはずだ。
ぼくらはロボットだから食料はいらないが、何か買い物をするだろう。多分手下が車に乗っているはずだ。そいつが、どの道を通ったか分かれば、エリアは分かる。それからモイラを探せばいいのだ。
ただ、海から絶え間なく風が吹いてきます。人間にとって心地いい風でしょう。何しろ、大都会は1年のうち8か月は60度近い気温になっている30世紀ですから、裕福な人間は、ほとんどこういう避暑地で暮らすようになっているからです。特に、ここブリーズ島は、有名人が大勢住んでいるので有名です。
「それにしても、なぜ、ケイロンがここに来たのか」と疑問に思いましたが、とにかく、ピノールは、潮風から身を守るために、道のそばに穴を掘ってそこに入りました。そこから、首を出してケイロンの手下を探すことにしたのです。
そして、一週間後、5本目の道で、ようやく見覚えのある手下二人が車を運転しているのを見つけました。
「よし、この道を利用するエリアにいるはずだ」と確信しました。しかし、潮風だけでなく、雨や穴の湿気でひどく錆びてきていました。こんな体を見られたら、すぐに捕まってしまう。
そこで、体の前は手でこすり、背中は大きな木でこすりました。そして、ボンドを関節に詰めて歩きだそうとしました。
しかし、ボンドを詰めすぎたのでうまく歩けません。「モイラ、もうすぐ助けるぞ。一緒に帰ろう」ピノールは、そう心で叫びながら、山道を登っていきました。

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