お梅(10)

      2018/06/14

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(191)
「お梅」(10)
お梅はかんちゃんの望みが分かってうれしくなりました。「かんちゃん、ありがとう。何ができるか分からないけど、できるだけお役に立てるようにします」と答えました。
「ありがとう。かんちゃん、うれしい」かんちゃんも汚れた顔をくしゃくしゃにして喜びました。
「ところで、かんちゃんの苗字は何ですか」とお梅が聞きましたが、かんちゃんは、「苗字?かんちゃん」と答えるのみでした。
「わかりました。これからもまた会えますか?」と聞いたとき、かんちゃん、かんちゃんという声が外から聞こえました。
すぐに声の主があらわれました。しんちゃんときんちゃんです。お梅はこの二人にも苗字を聞きたかったのですが、もし村の誰かに見つかったら大変なことになるのですぐに帰るように言いました。
数日後、お梅が寺子屋に向かっているとき、きゃあという叫び声がしました。
お梅は声がするほうに急ぎました。寺子屋は村の裏山にあるので、山道を上らなければなりません。途中にある寺を通りすぎてからも少し上ります。
山には遊ぶ場所がたくさんあり、一番人気があるのは、山道から少し外れた場所にまったく木が生えていないところです。みんなは、「禿山(はげやま)」と呼んでいます。そこを男の子だけでなく、女の子も木の枝に乗って滑るのです。
叫び声はそちらから聞こえてきました。お梅は、「禿山」の頂上に着きましたが、誰もいません。
「もしかして」と思って、木の枝に乗って下のほうまで行くことにしました。
すると、一番下の砂が山になっているところで誰かが倒れています。女の子です。
うつぶせで倒れていましたので顔を覗きこみました。血だらけです。よく見ると、お勢さんようです。
お勢さんはお梅と同じ「女組」ですが、あまり話したことがありません。
お勢さんの家は村の酒屋です。村一番のお金持ちです。
お勢さんの希望で寺子屋に来ていますが、親はあまりいい顔をしていないようです。だから、講習が終われば、誰とも話すこともなく、店の丁稚などがすぐに連れてかえります。
どうして丁稚がついてきていなかったのか。また、なぜこんなに早く「禿山」に来たのだろうと不思議に思いましたが、とにかくお勢さんに声をかけました。
うーんという声は聞こえましたが、どうも意識がないようです。
お梅は、「お勢さん、助けを呼んできますから、少し待っていてください」と声をかけて寺子屋まで走りました。
「女組」で、算数や習字を教えている田所昌(まさ)という女先生がいました。
お梅は禿山で倒れているお勢さんのことを伝えました。
女教師はすぐに向かいました。近くの寺にも使いが走り、若い坊主二人が助けに急ぎました。
お勢さんは意識が戻っていませんので、若い坊主がすぐに村の医者に連れていきました。
三日後お勢さんの意識は戻りました。お勢さんの話すところでは、親から止められていた遊びをどうしてもしたくなり、丁稚には忘れ物を取りに帰るように言ったそうです。その間に禿山を滑りおりてみようとしたのですが、慣れていなくて、横にある気に頭を打ったというのです。
しかし、寺子屋としては、どのような理由であれ多額の寄付をしてくれる親を怒らしたのではないかとおびえる毎日でした。
しかし、今回は、お梅がいなければ死んでいたかもしれないと医者からも言われていたので、親はお梅を命の恩人と感謝するのでした。
お勢さんが家に帰ってきた数日後、お梅は酒屋に招かれました。

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