雲の上の物語(11)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(162)
「雲の上の物語」(11)
「どうした?何かあったのか」主人公のビニール傘が聞きました。
「仲間が使われています!」
「それでいいじゃないか」
「いや、そうじゃなくて。手に持たれて」
「落ちつけ」もう一人のビニール傘が助け舟を出しました。
「はい。人間が仲間を持って相手を刺そうとしているのです」
「ほんとか!」
「はい。大きな声で騒いでいます。喧嘩している人間のまわりに大勢の人間が集まっています」
「駅の南口だな。見てくる」主人公は一人で飛んでいきました。
雨風が強くなって、電車から降りてきた大勢の人間が急いで駅から出ようとしているのに、そこだけ人間が集まっています。20人近くの人間がいるようです。
主人公は、ちょうどその上に庇(ひさし)があったので、そこに下りて下を覗きました。
「もうやめろ!」という声が群衆から上がりました。
「こいつが謝らないから怒っているんだ」と40才ぐらいの男が答えました。ビニール傘の先を相手に向けています。
「こんな日は仕方ないじゃないか。それにおれかどうかわかない」
どうやら電車の中で濡れた傘がずっと怒っている男の服にひっついていたらしく、それが気に食わなかったようです。
「いくら混んでいても人に迷惑をかけるな」
「どうせ外に出たら濡れるじゃないか」相手がそう言ったとたん、男は持っていた傘で相手を突き刺しました。
刺された男はうずくまり、そのままま倒れました。腹を押さえています。白いシャツからは血が溢れてきました。
「すぐ救急車を呼べ!」という声が上がりました。
「それはやりすぎだろう」という声とともに、刺した男は腕を捕まえられました。
それから駆けつけた駅員数人にどこかに連れていかれましたが、地面にはかなりの血が残っています。
風と雨はさらに激しくなり、駅の構内は人間でいっぱいになりました。
主人公は先ほどのビルの屋上に帰っていきましたが、すでに誰もいません。
二人は、捨てられた仲間に声をかけるために駅の方にいったようです。
2,30分ほどして、二人は帰ってきました。「2,3人生きていたので声をかけましたが、うまく空に上がれるかどうかはわかりません」と報告しました。
それから、すぐ後輩のビニール傘は、「どうでした?」と聞きました。
主人公は見たことを話しました。
「とんだとばっちりですね。おれたちは凶器にされることもあるし、役立たずになれば捨てられるし」と答えました。
「でも、雨の日は役に立つよ」主人公が慰めました。
「それに相合傘というものもあります」一番若いビニール傘も言いました。
「ビニール傘では格好がつかないよ」
「いい機会だから一度聞いておきたいことがあります」若いビニール傘が言いました。
「いいよ。今から忙しくなるから手短にな」主人公が言いました。
「はい。ぼくはあなたに助けてもらってこんなことを言うのはなんですが、ビニール傘なんていくらでも作られています。わざわざ助けても仕方がないのかなと」
「なるほど。ぼくもそう思ったことは何度もある。人間でも弱いものはほっとらかしにされることもあるが、どんな人間でもかけがえのないと信じられている。
人間が作ったぼくらには個性がないかもしれないが、懸命に生きていたら、ひょっとしてぼくらにも個性が生まれるかもしれない。
さあ、風が強くなってきた。もう少し見回ろう」