雲の上の物語(10)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(161)
「雲の上の物語」(10)
「今年もひどいな」と仲間がこの物語の主人公のビニール傘に言いました。
「ああそうですね。年毎に増えるような気がします」二人はビルの屋上で話していました。
二人はビニール傘仲間で、あちこちの駅前などで捨てられているビニール傘に声をかけ、まだ生きているものがいたなら、空まで上がってこいと励ますのでした。
前からこの「童話シリーズ」をお読みの方ならおなじみのビニール傘です。
4,5年はのこの「シリーズ」には出てこなかったのですが、その間にも、根気よく仲間の激励は続けていました。
当時は、高級傘は何十本も空に上がっていたのですが、ビニール傘はやはり弱いので、空まで上がるものはいなかったのです。
でも、主人公のビニール傘は100円で売られていたものですが、気力をふりしぼって突っ込まれていた駅のごみ箱から抜けだして、台風の風に乗って空に舞い上がることができたのです。
しかし、細い骨は2本折れていますが、うまくバランスを取ることができたので、今では思うように空高く上がったり地上に降りたりできます。
もちろん、体を広げたりすぼめたりしながら、望みの場所に行くことができます。
いかにも安物という姿なので、最初は高級傘たちに、「ここはおまえなどが来る場所ではない」とあからさまに言われたこともありましたが、なんとか空で生きようとする姿が認められるようになり、空を動きまわるための技術も教えるようになりました。
本人も安くことなく努力をして、高級傘でも100本に1本ぐらいしかできない偏西風に乗って世界一周するという快挙を達成しました。
やがてそのビニール傘は技術部長に選ばれました。今では、空に上がってきたもの、ほとんどがブランド傘や最高級の材質でできている高級傘ですが、持ち主に捨てられたたために第二の人生、第二の傘生を目指して、空に上がってきたもです。
高級傘は立派な体をしていますから、その気になれば空に上がれるのですが、高度何百メートルの場所で自在に動きまわることができるかといえばそうではなく、技術が必要なのです。
ましてや、それ以上の何千メートルの世界は無風あるいは暴風という環境ですから、そこに行くのはそうとう難しいのです。
それに、甘やかされてきたものが多く、そのまま地上に落ちてばらばらになってしまうものもいます。
技術と精神論を教えるものとして、そのビニール傘は最適な存在でした。
この数年、そのビニール傘は忙しい毎日を送っていましたが、さらに忙しくなるのは、台風シーズンです。
つまり、同じ仲間のビニール傘が受難シーズンということもできます。
今では、100本近くのビニール傘が主人公の仲間になっていますが、駅や繁華街にはビニール傘の無残な姿が増えつづけています。
主人公は、ビニール傘は人間に作られたもので、単なる消耗品ではあるが、生まれたかぎりは精一杯生きてほしいと思うのです。
累々と重なった白い姿を見ると絶望的になることもありますが、空まで上がってきた仲間といると、できるだけのことをしようと決めました。
大型台風が今晩来ることになりました。高級傘は台風が来ない空に避難しましたが、主人公のビニール傘は00本近い仲間とともに、あちこちを見張ることにしました。
風がきつくなってきました。「そろそろだぞ」主人公は仲間に言いました。
そのとき、「たいへんです!」という声とともに、別の仲間が下りてきました。

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