チュー吉たちの冒険

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(163)
「チュー吉たちの冒険」
「チュー吉。これを見ろよ」という声が聞こえました。
チュー吉が声の方を見ると、チュー太郎が布団にするためにどこからか運びあげた新聞紙を広げていました。
「なんだい?」チュー吉はそちらの方に行きました。
「ハロウィンだって。人間が仮装して騒ぐそうだ」
確かにそこには妙なメイクや妙な服の人間の写真が載っていました。
「少し前からハロウィンという言葉を聞いたことがあるけど、ここ数年はものすごい盛りあがりになってきたそうだな」チュー吉が言いました。
「どうしてこんなにブームになってきたんだろうな?」チュー太郎も同意しました。
二人にまわりには大勢の仲間が集まってきていましたが、博学のチュー助を見つけて、チュー吉はチュー助に助けを求めました。
「ハロウィンはアイルランドの宗教行事だが、欧米に行った移民が伝えたのは理解できるが、日本でブームになるのは確かに不思議だ。若者の変身願望があるのかな」
「でも、あまりにも子供っぽいな」チュー次郎があきれたように言いました。
「確かに。多分、景気も悪く将来の展望も描きにくいから、鬱屈した気分を発散させたいのだろう」チュー助が補足しました。
「そういうことか」チュー太郎の弟のチュー次郎が納得しました。
「昨日この家の孫娘もネコの格好をしてどこかに行ったぜ」チュー左衛門が大きな声で言いました。
「おいおい、それはしゃれにならないな。おれたちは対する当てつけか」チュー五郎は不満そうです。
「まあ、そういうな。今年の扮装のトップはネコのようだから」チュー八が口をはさみました。「流行のポケモンGOやピコ太郎を抑えたんだから」
「チュー八はそんなことはよく知っているなあ」チュー次郎が感心しました。
「おれたちは、チュー吉の考えに賛同して冒険してきたのだが、今まで何百人の人間を助けてきた。
留守の家で漏電から火が出たときは花瓶の水をかけて消したし、ドロボーに噛みついて撃退したし、おばあさんが意識不明になったときは、110番に電話して救急車を呼んだ。それから数えきれないほど人間の役に立つことした。
でも、人間の誰一人おれたちネズミに助けてもらったと気がついた者はいない。
『おばあさん、運がよかったね』で終わりだ。ネコがそんなことをするかい?
人間より高いものを食って、ニャーニャーと愛想するだけだ。後は間抜けな顔をして寝ている。
人間に人気のミッキーマウスのモデルになったおれたちの存在を認めさせようというチュー吉の考えは今も賛同するが、もう限界だよ」チュー五郎は突然不満を爆発させました。
「チュー五郎の気持ちはわかるが、医学においては認められているよ」チュー
太郎がなだめました。
「それは単なる材料だ」チュー五郎は聞く耳を持っていないようです。
「チュー吉はどう思う?」チュー助が聞きました。
「みんながんばってくれているのに思うようになっていなくて申しわけなく思う。
ぼくひとりではどうしようもないので、きみらが帰ると決めたらぼくも帰る」
「どうする?」チュー助がみんなに聞きました。
すぐにチュー八が発言しました。「いいことしたからほめろなんてやつはネズミの片隅にも置けねえぜ。とりあえず来年のハロウィンの仮装トップがわかるまでこのまま冒険を続けようじゃないか。
それに、おれたちのことを書いている作者は、『100才の主張』を一旦中止してまでおれたちを取りあげてくれたんだ。まだおれたちに興味があるということだ」
「そうしよう。それじゃ、夜が来るまでしばらく休もう」みんなはそう言って、それぞれの新聞紙に潜りこみました。

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