春の冒険(5)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(120)
「春の冒険」(5)
「ものすごい人間がいるわ。取っても楽しそう。私も人間に生まれたかったなあ」五女が言いました。
「ほんとね。それじゃ冒険しましょう。ここは安全だけど、空き缶やごみが多くて、嫌なにおいがする」いつなら憎まれ口をきく三女は五女に同調しました。まるでディズニーランドに行ったような気分になっているのかもしれません。
「どこへ行こうか」次女が聞きました。
「まず前の花屋に行きたいわ。花のいい香りがするもの」長女が答えました。
「そうしよう。すぐに商店街に行くのは危険だものね。人間に踏まれたら一巻の終わりだから。まずはあそこで気持ちを落ちつかせましょう」
次女を先頭に長女、三女、五女が一列になって、花屋にぴょんぴょん急ぎました。そして、植木鉢と植木鉢の間に入り込みました。
それから、人間の気配がないことを確認して、植木鉢の中に飛び込みました。「赤や青、紫、白の花が咲いている。みんなきれいわ!」、「お姉さん、私たちにはどんな花が咲くの?」、「白が多いようだけど、赤もあるようよ」、「へぇ、自分の花を見てみたいわ。でも、しばらくはお預けだわね」
姉妹がしゃべっていると、突然雨が降ってきました。「花に水をやっているのだわ。早く逃げましょう」
姉妹は、またぴょんぴょんと店を出ました。「それじゃ、商店街に行くわよ」人間を避けながら、ぴょんぴょんと商店街の入り口を入りました。
しかし、人間が立っています。タコ焼き屋です。大勢の人間ができあがるのを待っているようです。
姉妹はタコ焼き屋を越しました。そして、少し窪んだ場所に入りました。
「ここで休みましょう」、「もう?」、「あわてることないわ。何かあったらたいへんだもの」、「向こうにあるのがパチンコ屋ね」、「チンジャラとうるさいわ」、「でも、最近はこれでも静かになったようよ」、「中を見たいわ」、「パチンコ玉を穴に入れているだけよ」、「どこがおもしろいの?」、「穴に入れたら、下からパチンコ玉がじゃらじゃら出てくるので、それをお金に替えるのよ」、「へえ、おもしろそうね」、「でも、店も儲けたいから、そうそう穴に入らないようよ」、「それじゃ、損をする人間もいるわけね」
そのとき、パチンコ屋のほうから、何かころころ転がってきました。「何!あの光るもの。みんな気をつけて」次女が叫びました。他の姉妹は、ぱっと横に逃げました。
それはスピードを上げながら、どんどんこちらに向かってきます。そして、塀にどんとぶつかって、ころころしながら姉妹の近くに止まりました。ふっ、それは大きく息を吐くと、姉妹を見ました。そして、「何だ?おまえたちは」と聞きました。
「何だ?ではないでしょう!こっちを驚かしておいて、まずごめんなさいと謝るのが筋でしょう」次女は負けていません。
「気が強いな。青い玉のくせにして」
「それも聞き捨てならないわ」
「もうおやめなさい」長女は次女を制して、きらきら光る玉に言いました。「私たちはえんどう豆の姉妹で、ここは初めてなんです。それで、どこへ行こうか思案していました。そこへあなたが転がってきたからびっくりしたのよ。ごめんなさい」
きらきら光る玉は、上品な長女にどぎまぎしながら、「そ、それは失礼しました。ぼくはパチンコ玉というもので、向こうの店にいました」
「それなら、どうしてここへきたんですの?」
「いや、負けやつがポケットにいたぼくを腹いせに床にぶつけたんです。ドアが開いたので、そこからここへ」
「あまり穴に入れられなかった人間のことね」五女は屈託がありません。
「どうですか、最近は?」次女が神妙に聞きました。
「はあ、最近は暇になってきたな。昔は裏に回っては、すぐに前に来たけど、今は出番が少ないんだ。若者のパチンコ離れが進んでいるのでね」
「パチンコ台の向こうはどうなっているの?」三女が聞きました。
「ベルトコンベアでどんどん送られるんだ。最後にはきれいに磨かれて、また表に出てくる」
「いいなあ。私も磨かれたい」と五女。
「あはは。きみらは柔らかそうだからすぐにつぶれるぞ」、「あはは」、「ほほほ」これで急に親しくなりました。「ありがとうございました」長女はお礼に言いました。
「どこへ行くんだい?ぼくはもう店に帰れないから、きみらについていくよ。まず商店街の案内をしようか」