春の冒険(4)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(119)

「春の冒険」(4)
カバンが持ち上げられました。女の子は、外に出るとまた家とはちがう方向に向かいました。
「やだぁ!また習いごとだよ。今度は学習塾だわ。付き合う者の身になってくれ」三女は大きな声で嘆きました。
「きょうびの親は大変ね。何のための学校?」長女も口を揃えました。
「そうよ。いっそ学校など廃止して、自分の好きな習いごとをすれば、親も本人も助かるわ」三女は長女の加勢を得て、持論を展開しました。
「みんな、落ち着いて。もう少し様子を見ましょう」次女は2人に言いました。
「あっ。バスに乗ったわ。どこに行くのかしら」五女は冷静です。
「すぐに降りましょうよ」三女が主張しました。
「降りてどこへ行くの?」次女が聞きました。
「ディズニーランド」
「わたしはスカイツリー!まず東京全体を頭に入れてから次を考えるのよ」五女も誘惑に負けたようです。
「わたしはどこかの公園。静かだからゆっくりできるわ」長女も参戦しました。
早速三女が反応しました。「お姉さん。お言葉ですが、公園は静かじゃありません。ガキが多くてうるさいようよ。それに、やたら子供連れの母親も多くて、お互い見栄っ張りの応酬をしているらしいわ。
それにイヌがいる。わたしはね、ネコの次にイヌが嫌い。あの濡れた鼻が近づくと思うだけで、ぞっとするわ」
「最近はペットブームよ。ペットがいると癒されるのよ」
「家族同士がぎくしゃくしているのに、イヌやネコに愛情をかけるなんて、どうかしているぜ!」
「好き勝手言って。ぜも、どうしてディズニーランドやスカイツリーに行けるのよ」長女はふてくされたように言いました。
「ビニール傘がいれば、すぐに行けるわ。チュー吉たちもそうしてもらったじゃないの」
「でも、最近ビニール傘やチュー吉たちのうわさを聞かないね」
「作者の考え一つですぐに戻ってくるわよ。えんどう豆がビニール傘に乗って東京見物なんて、インパクトあるからすぐに実現するかもしれないよ」
「女の子が降りたらそこで考えましょう。それに、何かあるかもしれないし。『一期一会』を大事にしましょう」次女が口を挟みました。
「お姉さん、私たちはイチゴじゃないよ。えんどう豆ですよ」三女は次女に突っかかりました。
「わかっているわよ。一期は一生ということ。ほとんどの場合、一生に一回しか会わないから、その出会いを大事にしましょういうことわざよ」
「なんだ、そういう意味か。イチゴ1円は安いなあと思っていたわ」
「何だかさわがしくなった。それに、おいしそうなにおいがする。花の香りもする」五女は興奮しています。
ブッーという甲高い音がしました。バスは止まるようです。「降りようよ」三女と五女が同時に言ったとき、カバンが上がりました。「やったー」
女の子がバスから降りて、道を歩きだしたとき、えんどう豆の4人姉妹はカバンからぴょんと飛びあがって、ころころと転がりました。
歩道と車道の間にある生垣にたどりつきました。そして、まわりの様子を見ました。
「向こうは下町の商店街ね。入り口に、タコ焼き屋やパチンコ屋がある。それに、ケータイ電話の店。前は花屋よ。一期一会だらけだ」三女は大きな声で叫びました。

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