春の冒険(6)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(121)
「春の冒険」(6)
「ありがとう。コンビニという名前は聞いたことがあるけど、普通の店とどうちがうのか知りたかったの。さっきバスから降りたとき、「セブンイレブン」という名前が見えたから、どきどきしたわ」三女が言いました。
「きみら、バスに乗ってきたのか。すごいな」
「わたしたちが莢(さや)から飛びでた家の女の子がピアノや英語の習いごとをするためにバスに乗ったからですよ。そうじゃなかったら、そんなことできません」長女が説明しました。
「それにしてもすごいな。ぼくにはそんなチャンスがなかったからな。工場からここに来て、朝から晩まで働くだけの毎日だったから」
「これから冒険できるじゃないの」次女が言いました。
「そうだね。負けた腹いせで床にばらまかれて、しかも、他にも仲間がいたが、みんな店に残って、ドアから外に出たのはぼくだけだ。せっかく生まれてきたのだから、このチャンス生かすようにがんばる。ほら、ここがコンビニだよ」
「案外小さいのね」三女は興味津々です。
「コンビニはどこも同じようなもんだよ。年中無休で、しかも24時間営業しているから、人間は重宝している」
「それは便利ね。それでコンビニか」
「でも、過当競争で経営が苦しいチェーンもあるようだよ。それで、差別化を図っているんだけど、そのあおりでマクドナルドなどのハンバーガーショップに影響が出ているようだ。
もっとも、マクドナルドの場合は、例の食材の件で信頼を落としているのが最大の原因のようだけど」
三女はパチンコ玉の話を聞かず、店内をのぞいていました。そして、「みんな立ち読みしている」と言いました。
そのとき、ドアが開いて客が一人出ていきました。「おいそそうなにおいがする。中に入りましょうよ」三女は姉妹のほうに振りかえりました。
「じゃ、そうしよう」パチンコ玉は先頭に立ちました。右手にレジがあって、そこからにおいがしています。「豚まんよ」、「ソーセージもあるみたい」、「向こうにはお弁当が並んでいる」三女と五女はぴょんぴょん飛びあがっては大きな声で話しています。
「みんな気をつけるのよ」長女が注意いました。
「レジには誰も並んでいないわよ」
「そうじゃなくて、監視カメラに映るから」
「どうして!監視されなくていけないの」
「万引きする客がいるからよ。強盗も来るからね。最近は土下座させるクレーマーもいるから、いつも見張っていなければならないの」次女が言いました。
「さあ、みんな出ましょう。今誰か入って来たから、この隙に」長女が叫びました。
みんな慌てて外に出ました。「ああ、おもしろかった。次行きましょう」
「待って。五女がいないわ」
「ええっ!店に残っているのかしら」
「ぼくが見て来るよ。みんなここで待っていて」パチンコ玉は、またぴょんぴょんと店に戻り、ドアが開いた隙に中に入りました。
「あの子は、ほんとにのろまだから」三女は腹立たしそうに言っていますが、あの家でいなくなった四女と五女をいつもかわいがっていたのです。
しばらくすると、パチンコ玉は一人で帰ってきました。「店にはいなかった。反対のほうに行ったかもしれないから、みんなで探しにいこう」
それで、商店街の入り口のほうに向かいました。しかし、友だちになったパチンコ玉がいたパチンコ屋や、たこ焼き屋の前にもいません。それなら商店街を出たかもしれません。きょろきょろ探していると、歩道のはずれに、小さなものがいました。五女にまちがいないようです。
「あそこにいた!」姉妹とパチンコ玉は急いでそちらに向かうことにしました。
そのとき、パチンコ玉が、「待て!」と叫びました。そして、空を飛ぶような勢いで、五女のほうに突進しました。

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