春の冒険(7)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(122)
「春の冒険」(7)
5メートルはあったのに、パチンコ玉は3,4回ジャンプしただけで、五女の背後にいた大きなものに体当りしました。
ドスンと言う音がしたかと思うと、大きなものの体はグラッと傾きました。しかし、すぐにバタバタと飛びあがりました。
他の姉妹も急いで駆けつけました。「あなた、大丈夫?」長女が五女に声をかけました。
五女は何か起きたのかわからなかったようです。「何だったの?クッ、クッという声が聞こえたから振りむいたとたん、バタバタという音がして・・・」五女はそう答えるのみでした。
「ハトがあなたを食べようとしたのよ。それに気づいたパチンコ玉さんがあなたを助けてくれたのよ」長女が説明しました。
「わたしたちだけなら、どうしようもなかった」三女も言いました。
「ありがとうございました。妹はのんびり屋さんで困ったものです」次女はパチンコ玉にお礼を言いました。
「いやいや。妹はどこでもそうです。だから、姉妹はうまくいくのです。ぼくには、知りあいはいくらでもいますが、兄弟はいないので羨ましいですよ」
「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ。商店街は踏みつけられる危険もありますので、別の場所に行きましょう。どこがいいですか?」
「いつまで生きられないから、一度に世の中が見られるスカイツリーに行こうよ」五女は呑気に言いました。
「スカイツリーか。ディズニーランドよりいいかもしれないね」三女も賛成しました。
「ぼくも行きたいよ。でも、ハードルが高いな」
「みんなで助けあえば、どんなこともできますよ」
「善は急げ。それじゃ行きましょう」
「スカイツリーは墨田区にあるはずよ。ここは大田区よ。かなり遠いけど大丈夫?」えんどう豆の次女が聞きました。
「大丈夫。なせば成る、よ」三女は自信満々です。
「お姉さん、いい?」次女は長女に確認しました。
「みんな、いいと言っているのだから、みんなで行きましょ」
「ここから蒲田駅前バスで行って、そこから電車で、30分ぐらいで東京駅に行けるはずよ。そこからは、また電車かバスに乗るけど、迷わないようについてきてよ」
「は~い。それでは、行きましょ、行きましょ」えんどう豆の4姉妹とパチンコ玉はスカイツリーをめざして出発しました。
結局3時間かけて東京駅に着きました。ものすご
い人です。「みんな気をつけるのよ。早くこっちに」次女は踏まれないように階段の端を降りるように言いました。
「八重洲のほうから直行バスが出ているようだから、それに乗るわよ」次女は優秀なガイドです。
人間の客が、「30分待たなければならない」と言っているのを聞いて、しばらく休むことにしました。
みんなに注意を払っていた次女が、「また五女がいない!」と大きな声を出しました。
「また!どこへ行ったの」
「後20分しかない。早く探しましょう」
五女はバス停から50メートルぐらい離れた場所にいました。「また勝手なことをして!」長女が叱りました。
五女の横に見たことのないえんどう豆がいました。「あら、あなたもえんどう豆?」
「はあ。そこの中華料理店から逃げ出してきたんだ」
「せっかく自由を手に入れたのだから、私たちとスカイツリーに行かないかと誘っていたんだけど、行かないと断るの」五女が言いわけをしました。
「せっかくの自由だから、大事に使いたいんだ。だから自分でよく考えたいだけなんだ」
「あなたが言うとおりだわ。自分で考えるからこそ悔いのない生涯が送れるの。この子が失礼なことを言ってごめんなさいね」次女は謝りました。
「さ、早く行きましょう。もうバスが出るわ」
「それじゃ、お元気で」
バスはスカイツリーに着きました。人間の足元に気をつけながら展望台に上がり、気が遠くなるような景色を堪能しました。
「もう思い残すことはないわね」
「さあ、下りましょう」
下に降りて、次はどこに行こうかと話しあっているとき、人間の子供が、友だちのパチンコ玉を拾ってどこかへ行きました。
あっ!姉妹は大きな声を上げました。「たいへんだわ」大勢の人間が次々とバスに乗り込みとバスはすぐに出ていってしまいました。
「もう会えないかもしれない」、「一期一会とはこういうことだったのね」、「今度会ったとき、恥ずかしくないように生きましょう」姉妹はみんなで助けあうことを誓いました。

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