チュー吉たちの冒険二章2
「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「チュー吉たちの冒険」二章2
その声を聞いたチュー吉は、「逃げよう!と叫びました。みんなが勝手口のほうに急ぐと黒い煙の中に赤い炎が見えました。
ネズミは小さいのでこのまま突っ込んではひとたまりもありません。
人間は、「おーい。誰かいないか!」と何回も叫んでいます。しかし、煙が立ちこめているので中には入れないようです。
「食卓の端に金魚鉢があったはずだ。かわいそうだがそれを使おう。みんな集まれ」チュー吉が叫びました。
みんなで金魚鉢を押しました。10匹ぐらいのネズミでは簡単に動かせないはずですが、みんな必死で押したのですぐに床に落ちました。
ドンという音がしましたが、もちろん人間は気づいていません。
「よし。体を水に濡らしてから外に出ろ!」チュー吉は次の指示を出しました。みんなは床にこぼれた水に体を転がし、勝手口に急ぎました。
人間はまだ叫んでいます。その足の間を縫って外に出ました。
そのまま家の横の溝に潜り込みました。幸い数日前に降った雨があちこちで溜まっていたので、次々そこに飛び込みました。ジューという音がしました。あちぃ、あちぃとみんな叫びました。
サイレンの音が近づき消防車が続々と集まってきました。人間が大騒ぎしているのが聞こえました。溝の上の蓋を踏む音がさらに大きくなりました。
ようやく、「みんな大丈夫か?」とチュー吉が大声を出しましたが、辛そうな声でした。
「チュー吉。ありがとう。きみのおかげで助かったよ。水をかぶらなかったら、今頃丸焼きになっていたところだ。でも、きみはどうだ?最後に逃げたから心配していたんだ」チュー助が聞きました。
「いや。ぼくは大丈夫だ。逃げるときに背中に火がついたからぐるぐる回りながら逃げた。でも、痛いだけですみそうだ。他のものは?」
「ぼくが見てくるから、きみはここにいてくれ」チュー助は溝の中を進みました。
そして、「チュー太はいるか?」、「チュー五郎はどこだ?」、「チュー八は大丈夫か?」と確認しました。
前回言いましたように、冒険が始まったときのように最初の仲間がいつも一緒にいるのではなくて、それぞれ結婚していて、今後のことを話しあうときにしか集まらないので誰がいたか少しあやふやですので、チュー助は、「自分たちでも仲間を確認してくれ」と言いました。
その結果、集会集まっていた仲間はみんなとりあえず無事だったきたことが分かりました。
ようやく仲間がチュー吉のまわりに集まってきて、無事を喜びました。
「しかし、どうして火事になったんだろう?」誰かが言いました。
「だれもいなかったそうだな」
「チュー助はどう思うか?」
「たぶん漏電だろう」
「漏電って何だ?」
「おれたちも世話になっている電気が漏れて何かに引火したんだ」
「よくわからないが、よく人間が勝手口を開けてくれたな」
「でも、人間が人間を助けようとしただけだぜ」
「まあ、そう言うな。『誰かいないか』と言っていたけど、誰かにはおれたちも入っていたと思おうじゃないか」
「そうだな。おれたちは100人以上の人間は助けたのだから、それくらいはしたもらわなくては」
「それにして、あの子供たちはかわいそうだな。かわいい二人の女の子はどうするんだろう?」
「おれたちはどこへでも行けるもんなあ」
「人間には火災保険というものがあるし、お互い助けあうこともするからまた元通りになるよ」チュー助が口を挟みました。
「ぼくらも何かできないかなあ」
「金魚には気の毒なことをした。5匹はいたはずだ」チュー吉が申し訳なさそうに言いました。
「『金魚迷惑』などと言っておれないが、情けは人のためならず。これは人間同士だけでなく、おれたちネズミも仲間に入れてもらおう」
「また別のところで、金魚でも人間でも助けよう」
「助けあうことが人間の特長なら、今の人間世界の事態もそう心配しなくてもいいのか」
「そこだ。憎しみや核攻撃から人間を守るのは助けあいしかないが、それを放棄するかどうかで人間の運命は決まる」チュー助はまた持論を展開しました。
ようやく騒ぎは収まったようです。みんな蓋から顔を出して外の様子を見ました。