チュー吉の挑戦

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「ほんとはヘンな童話100選」の(14)
「チュー吉の挑戦」
まだ新聞配達のバイクの音さえ聞こえない時間ですから、かすかな声でもよく聞こえました。みんなで、声がするほうを探しながら進みました。
「あそこだ」チュー太郎が叫びました。民家の間に少し大きな建物がありました。
アパートのようですが、アパートとしては小さく、3階建てぐらいでした。そして、その泣き声は上から聞こえました。
外側の非常階段を上って、玄関を見ましたが、人の姿はありません。しかし、泣き声は聞こえます。「もうしません」としゃくりあげる声も聞こえます。どうやら男の子のようです。
「部屋にいるのだろうか?」チュー吉が言いました。すると、チュー作が、「見てくる」と言って、樋(とい)を伝って、屋根に上りました。しばらく待っていると、「いたぞ。2階のベランダで泣いている」
「よし、行こう」チュー吉は言いました。そのとき、チュー助が「ちょっと待て。そこへ行ってからどうするか決めておかないと」と言いました。
「ぼくらがあまり騒ぐと、近所迷惑になるから、子供を慰めよう。そのうち親も出てくるだろう」チュー吉は答えました。
「今日のところはそれですむかもしれない。しかし、この種の犯罪は、性犯罪と同じく、何回も繰りかえすらしいよ」
「どうして?」
「本人の性格に起因しているからだ。しかも、実の親ではないことが多いから、ひどい虐待をする」
「近所の人は気づいていないのだろうか?」
「いや、日頃から虐待が行われていることを知っているはずだ。今も気づいているだろう」
「どうして助けてやらないのだろう?」
「関わりたくないのだ。だから、いくらぼくらが騒いでも、ベランダからそっと見ることがあっても、また窓ガラスを閉めるだけだ」
「近所の人も当てにできないのなら、いい考えがある!」チュー吉が言いました。
「どうするのだ?」
「みんなで賑やかに踊ろう。そのうちネコが集まってくるだろう。その声で、近所のイヌも興奮して鳴きだす」
「グッドアイデアだ!」冷静なチュー助がめずらしく大声を上げました。
「よし、行こう」みんな、道案内をするチュー作の後に続きました。屋根の樋から下を覗くと、子供はまだいました。泣きづかれたのか、膝を立ててすわっていましたが、思いだすかのように泣くこともあります。
「かわいそうな子供!こんな寒い夜に外に出されるなんて」誰かが言うと、みんな胸がキュッとなりました。ママのあったかい体を思い出したのでした。
「さあ、子供を助けよう」チュー吉は、その思いを振りはらうように、みんなに声をかけました。
ベランダに下り、10匹全員が、すわって眠っている子供のまわりを、後ろ足で立ちながら、踊りはじめました。
それっ、チュー、チュー、チュー、それっ、チュー、チュー、チュー
それっ、チュー、チュー、チュー、それっ、チュー、チュー、チュー
その声に子供は目を覚まして、まわりを見まわしました。何が起きたのか怪訝な顔をしていましたが、やがて、それがネズミだとわかると、少しにっこりしました。
チュー吉たちは、さらに大声で踊りました。
それっ、チュー、チュー、チュー、それっ、チュー、チュー、チュー
それっ、チュー、チュー、チュー、それっ、チュー、チュー、チュー
やがて、ネコがあちこちから集まりだし、大声で鳴きはじめました。ネコは、チュー吉たちがどこにいるかわかったのですが、そこまで行けないのです。
ネコは、怒りに震えて大声で鳴きました。100匹ぐらいいたかもしれません。そして、その声に反応して、鎖に繋がれた町中の犬が鳴きはじめました。あちこちの玄関が開き、「うるさい!」という人の声がしました。
やがて、パトカーの音が聞こえてきました。パトカーが到着すると、警察官が、2,3人出てきました。
「よし、ネズミ踊り終了!」チュー吉は指示を出しました。そして、屋根に上り、樋から、下を見ました。
大勢の人が、子供がいるベランダを見上げているのが街灯の光で見えました。警察官がベランダに出てきました。
「これで、子供はしかるべき対応をしてもらえるはずだ」チュー助が言いました。
「少しは人の役に立ったかな」チュー吉は、みんなの満足そうな顔を見ながら、そう思いました。

 -