新しい世界

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(82)

「新しい世界」
「またあいつが来ていないぞ!」ボスが叫びました。
みんなはあたりを見回しましたが、確かにいないようです。そこで、「おーい、どこにいるんだ」、「早くこっちへ来い」、「ボスが怒っているぞ」と叫びながらあちこち探しましたが、返事がありません。
「もういい。みんな戻れ」ボスが命令しました。「あいつは、また寝坊しているんだ。もうどうしようもない。ここから追放することに決めた」
「ボス、あいつはいいやつです。もう一回チャンスを与えてくれませんか」一人の部下が言いました。
「いや、だめだ。若い者がどんどん育っているのに、指導する立場の者がこんなことではどうするんだ!」
「そうなんですけど・・・」
「1年の始まりは春だ。しかも、朝だ」またボスの話がはじまりました。
「どうだ、まだ夜が明けきれないときの神々しさは?神は春の朝(あした)にしろしめす、だ」
確かに、かぐわしい冷気に触れると、体にエネルギーが満ちてくるのがわかります。みんなは静かに話を聞きました。「だが、もう少しすれば、カモがガーガーと下品な鳴き声を出しはじめるし、こすっからいカラス野郎が『今日はごみの日だ。早く集まれ』とカアカア大声を上げながら飛びまわる。あわてたスズメもチュンチュンと意味もなく騒ぎたてる。
おれは、ウグイスの声も気に入らないぞ。ホ―ホケキョてか。自分は浮世のことは関心がございませんというふりをしやがって。
それに、朝早くジョギングするとしよりも気にくわない。いくらおれたちより長生きする人間だといっても、としよりがハアハア走るのはみっともない」
「ボス、お話の途中ですが、あいつを許してくれませんか」もう一人の仲間が思いきって聞きました。もうすぐボスの嫌なものが出てくると、友だちを許してくれそうにないと思ったからです。
しかし、ボスは、「いや、だめだ。二度とここに来させない」ときっぱり言いました。
それならと、二人の友だちは、寝坊している仲間がいるところに向かいました。
「ボスはキーキーしているな」
「キーキーは、おれたちの鳴き声ではあるが、いつもより興奮している」
やはり一番高い枝で寝ていました。「おい、早く起きろ」と二人は少し呆れて言いました。
その声で目を覚ますと、あたりをきょろきょろ見回しました。
それで、「ボスがお冠だぞ」ともう一度声をかけました。
「夕べから頭が痛いんだ」、「風邪か」、「それなら、一緒に謝ってやる」
寝坊していたヒヨドリは、しばらく考えていましたが、「きみらには迷惑をかけっぱなしだ。これからは一人で生きる」と答えました。
「一人で生きるのは辛いぞ。これから気をつけたらいいのだから」と説得しましたが、どうしても行こうとしません。二人は帰りました。
ヒヨドリは、少し迷いましたが、親兄弟はもういないのだから、ここにいても仕方がない。それなら、新しい世界を見てみようと決めて、朝日で赤く染まった空に飛びだしました。「とにかく遠くへ行こう」町を越え、山を越えどんどん飛びました。
疲れたので、大きな木の枝で休んでいると、空き地のあちこち花が咲いていました。
ほとんどが黄色の花ですが、赤い花が一つポツンと咲いていました。とてもきれいなのですが、遠くから見ても何だかさびしそうです。
地面に降りて近づくと、その花は、体をねじって怖がりました。
「大丈夫だよ。何もしないから。きみがさびしそうにしているから来ただけだよ」とやさしく言いました。
それに安心したのか、「みんなと離れているし、色も自分だけちがうので毎日さびしい」と答えました。
「それなら、ぼくと遊ぼう」
二人は、春の光のなかで時間を忘れて遊びました。
しかし、暗くなり、冷たい風が吹くようになりました。「あなた、もう帰らなくっちゃ。今日はありがとう」赤い花は礼を言いました。
「ぼくは帰らないよ。ずっとここにいるよ」
「でも、家族やお友だちが待っているでしょう?」
ヒヨドリは事情を話しました。そして、「ぼくはここにずっといるよ。毎日遊ぼう」と言いました。
それから、毎日、晴れた日だけでなく、雨の日も風の日も、二人はおしゃべりをしたり、「おしくらまんじゅう」をしたりしました。時には喧嘩もしましたが、疲れるとなかよくお昼寝をしました。
雨風がきついときは、羽で花を守り、大きな鳥がちょっかいを出そうとすると、勇気を出してぶつかっていきました。
とうとう5月も終わりに近づきました。花は疲れやすくなり、一日寝ていることが多くなりました。
ある日、赤い花はヒヨドリに言いました。「今年はもう終わりなの。今まで遊んでくれてありがとう。また来年ね」
「そうか。でも、ぼくは来年になると、この世にはいないかもしれない。いや、いないんだ。ぼくぐらいの年になると、みんな死んでしまうんだ」
「えっ、もう会えないの」
「仕方がない。これがぼくに与えられた運命なんだ。来年は、ぼくの代わりが来るだろう」赤い花から涙が流れました。
「ぼくはいないけど、きみは来年もきれいな花を咲かして、みんなを喜ばすんだ。きみは一人じゃないよ」
それを聞くと、赤い花は、小さな声で、「ありがとう。さよなら」と言うと、地面に倒れました。
ヒヨドリも涙を落として、「ありがとう。楽しかったよ」と声をかけると、空高く飛びあがりどこかへ行きました。
ヒヨドリも、その姿に涙を落として、「ありがとう。楽しかったよ」と声をかけました。
そして、友だちがいるところに戻ろうかと考えましたが、また新しい世界に行こうと決めて飛びあがりました。

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