アノール博士の夢(2)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(81)

「アノール博士の夢」(2)
世界中は、アノール博士が作った「空飛ぶ円盤」には宇宙人が乗っていて、地球を征服しようとしているのではないかと思うようになりました。
それはそうでしょう、大都市の上空で、それも会社や学校のお昼時間にアクロバット飛行してみんなを喜ばせたかと思うと、ミサイルを撃ちおとしたりするのですから、とても人間がするとは思えなかったからです。
世界中の国はあちこちで紛争を起こしていましたが、今では毎日のように国際会議を開いて、UFOにどう立ちむかうかを協議しました。
「博士、もう少しで博士が望んでいたように、世界は一つになりますよ」ヘパテスは博士の写真に声をかけました。
「しかし、今やめてしまっては元の木阿弥になってしまう。人間は、特に政治家は、反省すべきことをすぐに忘れてしまうのには定評があるからな」それで、一週間に一度ぐらい「興業」することにしました。
森の研究所で、まるでラジコン飛行機を飛ばすように操作するのですが、最近ではテクニックも上達して、突然急ブレーキで止まったかと思うとすぐに逆方向に全速力で飛んだりするだけでなく、蝶のようにひらひらと動いたり、また上下反対になったりするだけでなく、「あそこに円盤いる!」という声に空を見上げても、瞬間に姿を消すこともできるようになりました。
いよいよ地球防衛軍が創設されたようです。そして、宇宙人につけこまれないように、困っている国があれば、食料や資源を融通するようになりました。
ヘパテスは、アノール博士に恩返しができたのでホッとしましたが、「ラジコン遊び」に少しあきてきました。
いつかはここを出ていかなければならないので、博士のノートを整理しようと思いました。
博士は几帳面な性格だったので、下書きやメモなどはすべて処分していましたが、えっと驚くような設計図が2,3残っていました。
それは、何万人といる群衆の中でも特定の者を殺す道具や、地下のマグマを自由に操ることができる装置です。
「押しも押されもせぬ宇宙開発の第一人者だったのに、策略で追放されても文句一つ言わなかった博士がこんなものを」と、博士の無念さに涙が出てきました。
ヘパテスは、そう思いながらも、これを作ってみたいという気持ちがわいてきました。
3年後、ようやく恐ろしい武器ができました。カバンに入れられるほどの小さなものです。殺したい相手の写真をデジタル処理をして、それにインプットすれば、相手が、10キロ範囲にいれば、目的は達成できるのです。
試しに、森に入って鹿の写真を取りました。そして、研究所でインプットして、ボタンを押しました。2,3分後、大きな鳴き声が聞こえました。
ヘパテスはふぅと息を吐きました。「たいへんなものができた。どうしよう?」
地球防衛軍は地球を守るために活動していましたが、案の定、UFOがあらわれないために、最高司令官は世界を支配しているような錯覚を起こすようになり、組織は混乱していました。
ヘパテスは、本部があるニューヨークに行きました。翌日、司令官は自宅で死亡しているのが発見されました。しかし、新しい司令官が決まると、また混乱が起きるようになりました。
「博士はわかっていたのだな、人間の愚かさを。それなら、いっそこれを売って大儲けしよう」と考えました。
そのとき、突然大きな音がしたかと思うと天井が落ちてきました。ヘパテスは机の下に逃げましたが、まだまだ崩れてきました。
「博士、お許しください!もう一度チャンスをください」ヘパテスは叫びつづけました。

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