アノール博士の夢(1)

      2017/05/10

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(80)

「アノール博士の夢」(1)
アノール博士は、小型の無人ヘリに搭載しているカメラから送られてくるビデオを見ながら、「うん」とうなずきました。
それから、助手のヘパテスを見ました。ヘパテスもうなずいて、「博士の天才と執念の勝利です。いつでもOKです」と興奮して答えました。
「ヘパテス、もう一度飛ばしてくれないか。逆噴射するときに1.8秒ホバリングするが、そのときに攻撃を防ぐバリアがうまく出ているかどうか見たいんだ」
「わかりました。それじゃ、飛ばします」ヘパテスはそう言うと、手前の赤いボタンを押しました。
キーンという音と同時に、遠くの森から白い煙が出たかと思うと、巨大な物体が浮かびあがりました。
そして、しばらく浮いていましたが、それは一気に上昇し、数秒後には見えなくなりました。
「どのくらい上げますか?」ヘパテスが聞きました。
「3000メートルにしてくれ」
「わかりました」ボタンをぐっと手前に引いたかと思うと、すぐに「3000メートルです」と言いました。
「カメラヘリはどうか」
「もうすぐ追いつきます」そして、別の高度計を見ました。「今追いつきました」
ビデオに映っているのは、どう見ても「空飛ぶ円盤」でした。それが空中に浮いていたのです。
「よろしい。カメラヘリを中心にして、半径1000メートルで時計回りに旋回させてくれ」円盤はものすごい勢いで回りはじめました。
「よし、ここで逆回転させろ」ヘパテスはボタンを操作しました。円盤は一瞬止まったかと思うと、すぐに反時計回りに旋回しだしました。
博士は、カメラヘリから送られてくるビデオを見ながら、「よし、大丈夫だ。ホバリングと同時にバリアが出ている」と満足そうに言いました。
「いつからやりましょうか?」
「善は急げ、だ、明日の午後12時30分にニューヨークだ。サラリーマンやOLはびっくりするぞ」
「ランチショーですね」
「そうだな。翌日からは、パリ、モスクワ、ベイジン(北京)、トウキョーと一日公演をする。その後はしばらく様子を見よう」
「うまくいけばいいですね」ヘパテスは、博士の体調がよくないことを知っていたので、早く博士の夢が叶うことを願っていたのです。
アノール博士は元々世界の宇宙工学の第一人者でした。火星や月には100万人が住めるコロニーを作り、木星の衛星である「エウロパ」と「タイタン」にもコロニー実験をする寸前の2458年に、ロケットやコロニーの製造の中心となっていた企業が、博士の意見で外されたことを怨んで、博士の同僚や助手を巻き込んで、汚職をでっちあげたのです。
博士の指導で優秀なスタッフが育っていたので、博士は追放されたのです。
助手のヘパテス一人が博士と行動を共にしました。博士は、不平や不満を言いませんでしたが、自宅に引きこもったままでした。
4,5年後から、宇宙の覇権争いを巡って世界が激しく対立するようになりました。
地球以外で住めるようになったので、核兵器を使ってもいいというような風潮が出てきたのです。
その頃、博士はまだ70才でしたが、徐々に体調が衰えていき、このまま死んでいくのかと思いながらも、人類の未来を案ずる気持も出てきたのです。
「ぺパテス、わしもそう長くないだろうが、長年宇宙開発に携わってきた責任があるので、
何とか地球を守る仕事をやってみたいのだが」と言いました。
ヘパテスはうれしかったのですが、「でも、世界は受けいれてくれるでしょうか」と聞きました。
「宇宙開発はわしがしいなくても大丈夫だ」
「といいますと?」
「円盤を作るのだ。それを宇宙人の襲来だと思わせると、人間は争いをやめて、一つにまとまるはずだ。そうすれば、地球をかけがえのない星と思うようになるだろう」
二人は、森にこもって研究に没頭しました。
10年後、神出鬼没の動きをして、レーダーにも捕捉されず、また、どんな攻撃にも耐えられる全長50メートルの円盤が完成したのです。
翌日から、「空飛ぶ円盤」のニュースは世界中を駆け巡りました。
上空数百メートルでホバリングしたかと思うと、航空ショーのように、上下反対になったり、突然反対にマッハ2や3の速度で飛びまわったりするのに世界中が驚くとともに、地球が征服されるのではないかと不安に思うようになりました。
あちこちの国がミサイルを向けると、からかって近づいたりしました。
やがてミサイルを発射されると、人間を殺さないようにして、ロケット発射台を破壊したのです。
各国は一つの地球防衛軍にまとまり、宇宙人の襲来に備えるようになりました。
ヘパテスは、テレビを見ながら、「博士の考えどおりになりましたよ」と叫んだのですが、博士は、もはやベッドから出ることさえできなくなっていました。
ヘパテスがベッドに近づくと、博士はかすかに笑顔を見せると、そのまま息を引きとりました。後はすべてヘパテスに任されたのです。

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