シーラじいさん見聞録

   

先輩とオリオンは黙っていた。自分たちも、言葉にならない思いを感じているのだろう。
シーラじいさんは、「海の中の海」は、わしらがペルセウスのことでしばらく留守にするといったときから動きだしていたのだな。これはボスの決断にちがいないと思った。
「ベテルギウス、『海の中の海』は、わしらを助けるために、おまえたちを選んだのだということを忘れるなよ」と声をかけた。
ベテルギウスは深くうなずいた、
そして、先輩に、「ペルセウスと出あったのはこの近くかな」と聞いた。
「もう少し離れていたように思います」
「それではそこに行こう」
先輩が先に泳ぎだした。
しばらく進むと、あたりは、暗闇の濃淡が大きくなってきた。どうやら『海の中の海』のように山脈になっているにちがいない。
山の上や間を進んでいくと、向こうに高く聳えるものが見えてきた。
「あれです」
誰かが、おっという声を上げた。
「これはすごいじゃないか」シーラじいさんは、みんなを代弁したように言った。
「わたしも、これほど大きなものだったのかと初めて気がつきました。任務についていたので、いつも急いでいましたので」
先輩は、少し恥かしそうに答えた。
さらに近づくと、麓は途方もなく大きいことがわかった。
高さも何千メートルもあるようだった。
あたりは静まりかえっていて、動く影もどこにもなかった。
「ここです。私たちが会ったのは」先輩は、声をひそめて言った。
「ペルセウスたちは、おまえたちを見ていったん隠れたんだな」
「そうです。わたしたちに気がついて、あわてて上に逃げました。様子がおかしいので、しばらくついていくと、岩には穴がたくさんあって、その一つに、4,5頭で入っていきました。
わたしらは、穴の外から声をかけましたが、返事がないのです。
それで、隊長の命令で、見回り人の一人が入れるところまで入って、身分を明かしてから、『どうした。困ったことがあるのなら、何でも言ってくれ』と何回も叫びました。
そうすると、前にお話したとおり、リーダーと思われる者が、奥から、ここに来た事情を説明したのです。
このあたりは、以前より、緊張した雰囲気がありましたが、わたしらの任務とは関係ないので、気にも留めませんでした。
しかし、別の隊も、みんなで集まっていたり、上に向ったりする姿を見ていましたので、うわさはしていたんです」
「それからどうしたのじゃろか」
「わたしの仲間が、この上を通ったとき、ここの兵士に、誰かがここに来たことはないかと聞いたことがあります。
すると、妙なやつらが、ボスに会いたいとか言って来た。見ると、みんな子供なので、追いかけるとどこかに隠れたので捜索しているところだと答えたそうです」
「それで?」
「そのあとは、姿が見えなくなったので、わたしらも、すっかり忘れていました」
「今もどこかにいればいいが」
「子供であっても、戦いをする覚悟はしていたはずですから、殺されないかぎりに近くにいると思います」
シーラじいさんはうなずいた。
「それなら、その穴を調べにいこう」
すぐに、岩にそって上がっていった。しばらく行くと、先輩は止まった。
確かにあちこちに直径3メートルぐらいの穴が開いていた。ベテルギウスや先輩には、少し狭いかもしれない。しかも、中がもっと狭ければ、体の向きを変えることもできない。
そこで、シーラじいさんが穴の様子をうかがった。誰もいないようだ。そこで、少しずつ中に入っていくことにした。
ぽっかり開いているだけで、枝分かれした道などはないようだ。
シーラじいさんは、ペルセウス、ペルセルスと小さく叫びながら進んだ。底にいた小さな魚が驚いて逃げまわった。奥まで5.6メートルぐらいあった。しかし、誰もいない。
穴から出てきて、誰もいないことや穴の形状などを報告した。
「もう少し上を調べたいが、まず全体を見てみよう。
おまえたち3人で手分けして、警戒されないような距離を保って、この要塞を見てきてくれ」
みんなを見送ってから、シーラじいさんは、麓に下りた。
また、ペリセウスたちが戻ってきているかもしれないと思ったのだ。
そして、海底に腹をつけるようにして、あたりをじっと見たが、やはり影が動く様子はなかった。
やがて、3人が次々に帰ってきた。
まず先輩が的確に状況を報告した。
「上に行くほど穴も多くなり、岩肌にらせん状の道があります。そして、かなりの者がそこを行き来しています。
もちろん、穴を出入りしている者、道で食事をしている者などがいます。
10頭ぐらいで整列して進んでいる一団があちこちにいますが、あれは兵隊でしょう」

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