シーラじいさん見聞録

   

「ここは、わたしたちが基準としている「海の中の海」にある山の50倍ぐらいあるようです。そして、上に行くほど細くなっています。
これほど大きいのは、ここに大勢の者が住んでからでしょうか」
「そうじゃろ。しかも、絶大な権力を握っているも者がいるはずじゃ」
ベテルギウスも、前に出て大きな声で報告をはじめた。
「おれは、もう少し近づきました。すると、あちこちに大勢集っていました。何をしているのだろうと、警戒されないように近づきました。もしオリオンの友だちが捕まったのならすぐに助けようと思ってね。
しかし、どうも様子が変です。一斉に岩にぶつかっているのです。ぶつかると、岩がぼろぼろ崩れているのが見えました。側にいる者から激しく叱られている者もいます。
また、岩に筋をつけているような作業をしている集団もいます。あれは何をしているのでしょうか」
「多分穴を開けているようだな。まさか自分たちで穴を開けているとはな。
監督をしている者がいるのは、どこからか連れてきて働かせているかもしれん。
筋をつけているのも、さっき見たように、そこに食料が集るように工夫しているのじゃ」
「それなら、ペルセウスも働かされているかもしれませんね」オリオンが言った。
「それなら話が早いが。オリオンは何か気がついたことがあったか?」
「その穴ですが、さっき調べた穴より、上のほうの穴が、入り口が狭いよう気がするのです。不思議に思って、もう一度見てみましたが、やはりそうでした」
「なるほど。入り口が広いと、穴に逃げこんでも、敵も穴に入ってきて襲われるかもしれん。
それで、住むのにも、逃げるのにも、入り口を狭くしたのだな」
「だから、下の方は使ってないのですね」じっと聞いていた先輩が言った。
「そうじゃろ。学習や統率ということから考えると、ここには相当知能が高い集団がいるようじゃ」
「上にいくほど細くなっているのも、自分たちで工夫したかもわからん」
「どうしてですか」ベテルギウスが聞いた。
「敵を防ぐためじゃ。そこが平たくなっていれば、敵が潜んで、上から攻撃されるかもしれん。また上から見えにくくする効果もあるじゃろ」
「どうしましょうか」先輩が聞いた。
「それじゃ捕まえて聞いたらどうでしょうか。おれたちは、そのために訓練を受けてきているのですから」ベテルギスが大きな声で言った。
「そんなことはできない。確かに少数ならおまえたち一人でも十分だ。しかし、大勢の兵隊に取りかこまれると、おまえたちが何人いても危険だ。
敵が穴に逃げこむとおまえたちは追いかけられない。最後には疲れはて、相手の思う壺にはまってしまう。
こんなに知能が高いなら、陽動作戦ぐらい考えるじゃろ」
「陽動作戦?」ベテルギウスが興味を示した。
「おまえたちの注意をそらすために、わざとちがう方へ誘う。その間に自分たちの行動を進める」
「たとえば?」
「大勢の兵隊が突進していけば、そちらに何か起きたと思い、おまえたちもついていくじゃろ。ただし、おまえたちを撹乱するのは、おまえたちを敵と認めたからじゃ。
だから、今は隠密に行動することが大事じゃ」
3人とも、シーラじいさんの話を聞いて、体の中を緊張が一気に走った。
命がけの戦いが、もうすぐ始まろうとしているのだ。
ベテルギウスの先輩は、聳えたつ城壁を見ながら思った。
「『海の中の海』には、優秀な兵士が数多くいる。今はシーラじいさんがいなくてはならないときだ。それなのに、シーラじいさんとオリオンを助けるために、まだ経験の浅いおれや訓練を受けなおしているベテルギウスを選んだ。
『海の中の海』としては、苦渋の選択だったにちがいない。
おれは、命を落としてでも、シーラじいさんとオリオンを助けなければならない」
シーラじいさんの声が聞こえた。
「まず、わしらの目的を忘れないことだ。目的は二つある。一つはペルセウウを救いだすこと。そして、ボスに、今後、ペリセウスの国を侵犯しないよう確約を取ることだ。
どんなときも、絶対にそれを忘れるな」
3人ともうなずいた。
「それでは、オリオンは、作業をしている者の中に、ペリセウスがいないか調べてくれ。おまえしか、ペルセウスの顔を知らない。
ベテルギウスとおまえ、そうじゃ、お前にも名前をつけてやらなくてはな」
先輩の顔がぱっと明るくなった。
「これから、おまえをリゲルと呼ぶことにする」
「先輩、強そうな名前ですね!」ベテルギウスが叫んだ。
リゲルは笑顔でうなづいた。
「リゲルとは、オリオン座の左足元で青白く輝いている星だ。
なんでも太陽の3万倍も明るいといわれている。
これからも、ベテルギウスとオリオンを、その光で引っぱってやってくれ」
「わかりました」リゲルは力強く答えた。
「それじゃ、リゲルとベテルギウスは、あやしまれないように城壁のまわりを偵察して、
作業をしているのか、誰かを捕まえようとしているのか調べてくれ」
「もし捕まえようとしているのなら、どうしたらいいですか」リゲルが聞いた。
「本人を救いだし、すぐのところに連れてきてくれ」
「了解しました」
「それじゃ行こう。オリオンと先輩、いやリゲル」
「よし」
「よし」
3人はあっという間に消えた。

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