シーラじいさん見聞録
「何かあったのか」シーラじいさんは思わず聞いた。
「そこまでお送りします。門番にも内密にするように言わなくてなりませんので」
真ん中にいたリーダーが、来た理由を説明した。
「それはありがたい。それじゃ、わしらは行く」
シーラじいさんとオリオンが目立たないようにするためだろうか、メンバーが別れて、二人の両脇を進んだ。
広場や病院、リハビリ室、そして、仲裁室、その付属の名前部、分類部、分析部などの部屋の前を通った。まだ誰もいなかった。そして、内側の門に着いた。
そこは、ウミヘビの管轄するところだ。ボスなど、幅が何十メートルという巨大な者が出入りするので、門も30メートル近くあった。
その両脇には、常時何十匹というウミヘビが警戒に当たっていた。
外側の門には、サメが警戒していたので、襲ってくる者はほとんどいなかったが、ときどき小さな魚の集団が紛れこんで、内側の門まで来ることがあった。
ウミヘビたちは、引きかえすように警告したが、聞きいれないときは、毒をまきちらし、それ以上入ることを許さなかった。
しかし、「海の中の海」に出入りすることが許されている者も、毒が消えるまで、しばらくそこを通ることができなかった。
リーダーから、事情を聞いたウミヘビの門番たちは、二人のまわりに集まり、「シーラじいさん、オリオン、気をつけていってらっしゃい」、「早く戻ってきてください」と、口々に挨拶をした。
あまり気持ちのいいものではなかったが、みんなの言葉に送られて、外側の門に向った。
上から木の枝が垂れさがっている外側の門は、誰もいないように見えたが、いや、それだからこそ、緊張した雰囲気が漂っていた。
以前、ホシの講義で外の海に出たときは、事前に話がしてあったようで、番人も遠くから見ていたのだろう。
シーラじいさんたちが門に近づくと、どこからか黒い影が二つ三つあらわれた。サメのようだ。
出て行くときは、誰何(すいか)されることはほとんどないが、シーラじいさんたちが緊張しているのを感じたのか近づいてきたようだ。
すぐにリーダーが話をした。番人たちは、すぐに消えた。
改革委員会のメンバーは、門の外までついてきた。
「それじゃ、気をつけて」
そう言うと、メンバーたちは、それに答える暇(いとま)もなく消えた。
見回り人などがそろそろ帰ってくる頃なのだ。
シーラじいさんとオリオンはそのまま上に向った。
本来、防衛のために、峡谷を上がることはきつく禁じられているが、決められた道は、
「海の中の海」に出入りする者に出会うかもしれないので、それを避けるためなのだ。
オリオンは久しぶりなので、少し緊張していたようだ。あちこち泳ぎまわることをしないで、ずっとシーラじいさんのそばについていた。数十分後に海面出でた。
心地よい風が海面を揺らしていた。空を見上げると、朝が明けるまでもう少しあるようで、満天のホシが瞬いていた。
しかし、シリウスは、容易にわかった。
「オリオン、シリウスに向っていくのだ」
「シーラじいさん、わかりました。疲れたらおっしゃってくださいよ。ぼくがなんとかしますから」
「そうか。わしもがんばるが、そのときは頼むぞ」
シーラじいさんは、オリオンが頼もしく思えた。後はペリセウスを見つけるだけだ。
二人は泳ぎだした。
星が消えると、シーラじいさんは休んだ。オリオンは、海の中の様子を見たり、海面に出てジャンプをした。
「海の中の海」は薄暗かったが、外は色が溢れ、目が眩むほど眩しかった。
しかし、ペリセウスは、今この広い海のどこか暗い場所にいるのだ。
一人ではないと聞いているが、どんなに心細いことだろう。どうせ前にいやがらせに来ていた連中だろう。見つけ次第けちらしやる。
しかし、何があったのだろう。オリオンは、ペリセウスのことを考えつづけた。
数日して、ボス座が右手に見えるようになった。
「オリオン、ここらから曲がることにしようか」
シーラじいさんは、オリオンに声をかけた。
「じゃあ、もうすぐペリセウスに会えますね」
「そうだな。これからは大きな岩に注意してくれ。何か様子がおかしいようだったら知らせてくれ」
オリオンは、岩を見つけると、一気にそこまで行き、まわりの様子を調べた。以前見た敵に似ている者がいれば、さらに時間をかけた。
しかし、それらしき場所はなかった。
「シーラじいさん、ぼくが見おとしたということはないでしょうか。
ここで待っていてくれませんか。もう一度戻って見てきますから」
「オリオン、そうあせるな。そのときはわしが決めるから、おまえは今までのように、前を向いて、しっかり調べてくれたらいい」
翌日、あちこちの岩山を調べていると、どこからか、「オリオン、オリオン」という声が聞こえた。
シーラじいさんが呼んでいるのか思ったが、その声はどんどん近づいてきた。