シーラじいさん見聞録
「それですか。確かここだったはずだと思って探したけど、それらしき穴が見つからずに通りすぎましたよ」ミラは納得したように言った。
「おれたちもわからなかったが、オリオンが別の穴で怪物を見つけたので、助けたらそこを教えてくれたんだ。そこは岩が崩れて入口がふさがれているんだ」
「それじゃ、ぼくが岩を除けましょうか?」
「いや。上からまだ崩れそうになっていて怪物が体当たりしても取り返しがつかなくなるかもしれない。それで、おれたちが様子を見ながら岩を少しずつはがしている」
「怪物は生きていたんですね」
「生きていた。ぼくらの仲間としてうごいている。しかし、この数日姿を見せないだ」
「それは心配ですね」
「とにかく一度上がろうじゃないか」リゲルが言った。
「そうしましょう」ミラも同意した。
シリウスやペルセウス、若いシャチは今か今かと待っていたようで、リゲルとオリオンが海面に姿をあらわすと、「ミラはいましたか?」と聞いてきた。
「いたよ。もうすぐ上がってくる」
そのとき、海面が突然膨らんできた。おい、おい、おい。みんな驚いたが、何が起きているのかわかっていたので、わざと海面の上を転がった。みんな数百メートルは転がったようだった。
そして、海面に大きなものが上がってきたので、みんな急いでそちらに向かった。
「ミラ、ミラ」、「ミラが帰ってきたぞ!」。シリウスとペルセウスは抱きあって大喜びだった。
ミラは、「ごめんな。またやっちゃったよ」と泣きそうに言った。
「絶対生きて帰ってくるとは思っていたが、オリオンたちがニンゲンを助けるまさにそのときに帰ってくるのはミラらしいよ」シリウスはうれしそうに言った。
「いや。おれも必死だったよ。たぶんクラーケンにやられて死ぬ寸前だったが、匂いを嗅いだ仲間が俺を見つけてくれたんだ。
それからはおぼえていないが、気がついたら、見ず知らずの仲間が30頭以上集まってくれていた。それで、何とか生きることができた。
それだけなら、もう少し早くこれたのだが、別のクジラが同じように襲撃されたのでおれも手助けのためにそちらに行っていたんだ。
それから、シーラじいさんがいる場所に急いだ。そのとき、シーラじいさんからきみたちのことを聞いて、インド洋に向かうことにした。
地中海からインド洋に入りたかったのだが、やはり無理なようで、アフリカを回ったというわけだ」
「それは大変だったな。でも、かなり傷が負っているじゃないか」
「まあ、名誉の負傷というわけだ。でも、そんなこと言っておれないからな」ミラは本音をしゃべった。
「しばらく休まなくていいのか」リゲルが聞いた。
「大丈夫です。ほんとにその岩を片づけなくていいのですか」と聞いた。
「そうしてもらいたいが、もう少しぼくらでやるよ」
「分かりました。何でもしますからいつでも言ってください」
「怪物がいなくなったことが気がかりなんだ」
「それなら怪物を探します」
「頼むよ。でも、無理はするなよ。クラーケンはまた戻ってくるだろうから」リゲルがミラの性格が分かっていたので前もって言った。
「ありがとうございます。でも、今まで迷惑をかけてきたからできるだけのことはするつもりです」
「そうじゃないよ。きみがいないとおれたちが困るんだよ」リゲルは念を押した。
「わかりました。気をつけて動きます」ミラとリゲルなど昔からの仲間の話がおわったので、若いシャチはミラのまわりに集まった。
「ミラ、どんな冒険をしてきたのですか」とか「クラーケンはどんな攻撃をしてきますか」と聞きたがった。
ミラは少し話したが、若いシャチは、「ミラがいてくれたら怖いものなしですね」とミラをほめそやした。
ミラは、「ぼくのことよりオリオンに話を聞いたほうがいいよ。オリオンは海だけでなく、陸でも不可能だと思われることを可能にしてきたんだから」
「それは聞いています。今回もオリオンがいるからぼくたちは心配していなのですが、でも、ミラはクラーケンと実施に戦ってきたんでしょう?」
「いやいや。まだ戦うというほどのことはないよ。やつらはいつも大勢で来るからな。でも、それは言いわけだ。
逃げるのは得意になった。ときどく、それももしくじって、いつもリゲルとオリオンには迷惑をかけているんだ。そうですよね、リゲル」ミラはリゲルに助けを求めた。
リゲルもここぞと言わんばかりに話した。「逃げることは大事だ。無理に向かっていくと取返しがきかないことになる。
おまえたちも、勝ち目がないときは逃げることを考えろ。それは恥ではない。反省して次の作戦に生かすほうがいい」
「大勢の敵に囲まれたときはどうすればいいのですか?」
「それはオリオンが教えてくれる」リゲルはオリオンを呼んだ。
「そうだな。まず焦らないこと。慌てて向かっていくと敵の思うツボだ。簡単にやられてしまう。
フェイントをかけたりして、主導権を取るんだ。そして、隙間ができたらそこを突破する。敵がいくら大勢でも逃げるときは関係ない。とにかく逃げろ。
しかし、先回りされないようによく考えて行動したら必ず逃げられる」オリオンは細かく教えた。
4頭の若いシャチは緊張して聞いていた。「とにかく臆病にならなければ何とかなるよ」オリオンは緊張を解いた。