シーラじいさん見聞録

   

「今日は何か起きるか分からない。しかし、今のオリオンの話を忘れなかったら大丈夫だ」リゲルが珍しく若いシャチに声をかけた。4頭の若いシャチはうなずいた。
リゲルはそれ以上言わずに「よし。行くぞ」と叫んで海に潜った。若いシャチは続いた。オリオンは若いシャチの様子を見た。おびえている様子はないことを確認して続いた。
ミラもみんなの姿を消えてから潜ったが、みんなのまわりを警戒しながら海底に向かった。
リゲルたちはいつもの場所に着いたが、まず怪物を探した。「今日もいないな」リゲルが言った。ミラも来た。そして、「やはりいませんか」と聞いた。
「いないな。何があったんだろう?ぼくらに協力的だったから、姿を見せないのはおかしい」
「クラーケンと関係あるのでしょうか?」ミラが聞いた。
「そうしか考えられないよ。ほんとに仲間になっていたのだから」
「ぼくは怪物を探してきます。何かあったら戻ってきますから」ミラはそう言うと消えた。
「ミラがいてくれたら安心ですね」若いシャチが言った。
「そうだ。しかし、おれたちも気をつけよう。とにかく何か異変を感じたらすぐに報告しろよ」
「はい。分かりました」
リゲルたちはいつものように岩に体当たりをして、少しずつ岩を崩した。
オリオンは、衝撃を与えても絶対落ちてこない場所を確認して、そこにぶつかるように若いシャチに指示を出した。
早く岩に穴を開けなければならない。そのためにどうするか。オリオンは常に考えていた。
しかし、いや、そのために数センチの厚さでもはがれるとみんなで喜ぶようにした。成果こそが次へつながる絆になるのだ。それは、シーラじいさんから教わったことだった。
ミラが戻ってきた。そして、「やはりクラーケンらしきものが来ています」と報告した。
「そうか。何をしているのかわかるか?」リゲルが聞いた。
「何か探していますね」
「こちらに来ないだろうか」
「離れていっていますから大丈夫だと思いますが、もしそうならすぐに戻ってきますから」
「オリオン、やつらは何を探しているのだろうか?」リゲルが聞いた。
「やはり怪物か」オリオンは確信がなかったが答えた。
「きみもそう思うか」リゲルも納得したように言った。
「どうして怪物を探しているのだろうか」
一人の若いシャチが、「それならニンゲンは生きているのですね!」と興奮して叫んだ。
「どういうことだ?」
「クラーケンは、怪物からニンゲンがどこにいるか聞きだそうとしていると思います」その若いシャチは自分の考えを続けた。
「オリオン、そんなことがあると思うか?」
「そうかもしれない。怪物とクラーケンは最近ここで鉢合わせしたのではなく、以前から何かあったかもしれないな」
「その原因がニンゲンだというのだな」
「たぶん」
「つまりクラーケンはニンゲンに用があるのか」
「そう思う。理由はわからないけど」
「じゃ、怪物はニンゲンを守ってくれているのですね」別の若いシャチが言った。
「そうだろう。ひょっとして岩を崩したのは怪物かしれない」オリオンが自分の考えを言った。
「それはすごい!何としても怪物を助けなくてはなりません」
「そうだ」、「そうだ」他の若いシャチも叫んだ。
「話は戻るが、どうしてクラーケンはニンゲンを探してしているのだろう?」リゲルがもう一度聞いた。
「それはわからない。それに、ニンゲンを偶然見つけたのか、目的があって探していたのか」
「元々クラーケンの目的は何なのですか?」若いシャチが聞いた。
「ニンゲンを地球から追いだすことだと思う」オリオンが答えた。
「そうなんですか!」
「それは今までのやつらの言動から分かっている」
「ぼくらはニンゲンを助けようとしているのに」別の若いシャチが叫んだ。
「オリオン、ミラと怪物を探しにいってくれないか?」突然リゲルが言った。
「でも、岩を早く除けなければならない」
「ぼくらでやるよ。それも、怪物が見つかるまでだから。怪物が戻ってくれば、今回のこともみんな分かるから」
「ぼくらも今まで以上に働きますから」若いシャチが口を揃えていった。
「わかった。それじゃ、今から行ってくる」オリオンはそう言うとすぐにミラと動いた。
20分ほど進むとミラが止まった。「さっきはこのへんにいましたね」
確かに今岩を崩してる場所に似ていた。巨大な岩が積み重なっていて隠れるにはもってこいだ。しかも、どこまでも広がっているようだ
「近くにこんなところがあったんだな」
「あっ、何か動いていますよ」ミラが叫んだ。

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