シーラじいさん見聞録

   

オリオンが答えようとしたとき、イリアスが、「オリオンは疲れているよ。ちょっと休ませようよ」と大きな声で言った。
それを聞いたアントニスが、イリアスを見て、「おまえがオリオンと遊びたいだけだろう」と笑顔で言った。
「イリアスはいつもオリオンのことを思っているから分かるのよ」ミセス・ジャイロが加わった。
「確かにそうだ。2,3日遅れても何も変わらない」ジムも加勢した。
「オリオン、どうする?少し休もうか」アントニスは聞かざるをえなくなった。
「ありがとう。でも、ぼくのミスで方向をまちがえたり、一度戻ったりしたのに、みんなは腹も立てずに待っていてくれました。
ここにいるみなさんはもちろんですが、リゲルたちも、この間にベンが乗っていた船を何回も見にいったそうです」
それを聞いたマイクはすぐに反応した。「やはりそうか。船は見つかっているんだね」
「そうです。かなり深い海で見つかったそうです。捜索をするために船やヘリコプターが集まってきたので、ミラは先回りして見つました。
ようやくセンスイカンも見つけたのですが、どうしようもなかったようで、結局捜索は打ち切りになったようです。
その後も、リゲルとミラはそこ行き、何とかできないか考えたのですが、時間が立つばかりであきらめざるをえなかったのです。
向こうにいるクジラたちもそこに行ってくれたのですが、ミラといっしょに船を海面まで上げられないかと提案したのですが」
「クジラたちって?」
「リゲルたちが北極海で知りあったクジラです」
「そのことについては、シーラじいさんの手紙に書いてあった。クラーケンに大勢殺されたようだが、リゲルたちの努力で、残ったものが自分たちで海を守るようになったそうだな」アントニスが言った。
「そのようです。ぼくが迷っているとき偶然会ったのですが、そのお礼がしたいと言うので、いっしょにリゲルたちがいる場所に行きました」
「そうだったのか。ここにいるのか」
「会いに行こうよ」イリアスの目が輝いた。
「いや、今はマイクとジョンが教授と話をしなければならないから、その時間はないよ。
明日も来るから、その時に会えるかもしれないよ」アントニスはイリアスを説得した。
オリオンは、「早く教授に連絡してください」とマイクに頼んだ。そして、イリアスのほうに向かって、「イリアス、いつも心配してくれてありがとう。ベンのためにも、今のチャンスを逃したくないんだよ。みんな終わればずっといっしょにいよう」と声をかけた。
「わかった。ぼくはオリオンのためにどんなことでもするから、何でも言ってくれ」と言って、体を船から出してオリオンを抱きしめた。
マイクは、「それじゃ、今から教授と話をしてくる。大学の研究所に行けるのがいつになるかわからないが、とにかく明日も今ごろ来るよ」と言った。
船はすぐにトロムソの港に向かった。途中、マイクはアムンセン教授に連絡した。そして、マイクとジョンは教授と大学の外で会うことにした。
午後4時に研究が終るということなので、午後5時にクラリオンホテルで合うことになった。
すぐにマイクが話しはじめた。「ベンからは連絡がないのですが、オリオンはこの近くにいます。今朝会ってきました。オリオンはすぐにでも教授のお世話になりたいと言っています」
教授は、「ベンはオリオンの能力については詳しくは説明してくれていなかったが、自分で会いたいと言ったのかね」と聞いた。
2人はどう答えるべきが躊躇したが、「そうです。こちらが話をすると、了解の合図をしてくれました」と答えるのが精一杯だった。
しかし、教授はそれ以上は聞かず、笑顔で頷いた。「ベンはどうしたんだろう?」と独り言のように聞いた。マイクとジョンは顔を見合わせた。
「教授。断定はできないのですが、先ほど聞いた情報をお知らせしていいですか」と思いきって言った。
「何だね」
「実はベンが乗っていた船が撃沈されたそうです。しかし、イギリス政府は、同盟国の意思でもあるのでしょうが、そのことは一切表に出していません。
だから、推測でしか言えないのですが、ベンの生存の可能性は低いのかと・・・」
「ほんとか!でも、誰がきみたちに教えてくれたのだね?それと、ベンがオリオンを運んでいたのじゃないのかね。ぼくはそう聞いたが」
「ベンは、ぼくらの研究所に海軍から派遣されていたので、組織やプライベートのことは知りませんが、所長が海軍のOBと連絡をつけてくれて調べてくれているのです。
何分秘密主義で、しかもこの情勢ですから、正確なことは分からないそうですが、敵に撃沈されたことはまちがいないようです。だから、どこかで生存しているかもしれないし、ぼくらもそう祈っています。
また、オリオンがベンが乗りこむ船にいたのはまちがいありません。ベンは何度も連絡してくれましたから。だから、ベンの船が敵がいる場所に行くときに、ベンがオリオンを海に戻したとしか考えられないのです」
「そうか。それでオリオンは一人でここに来たってわけか」教授は2人を見た。
それから、「ベンが言っていたように、オリオンは特別な能力を持っているようだな」と言った。
2人はうなずいた。「できるだけのことをしよう。それなら、早いほうがいいね」
「オリオンもそう考えていると思います」
「それじゃ、ぼくはどうしたらいいんだい?」

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