シーラじいさん見聞録

   

「よく助けてくれたな。みんな喜んでいるよ」ミラは声をかけた。
「いや、あいつらも食べるものが少なくなっていらいらしていたのだろう。おれがやめろと止めても執拗に攻めつづけたので、おれも必死だった。
きっとおれに横取りされるとでも思ったかもしれない。きみに言うのも何だが、仕方がないことだがね」
「まだうまく逃げることができないから格好の餌と思ったんだろうな。これであいつらも勉強になったはずだ。でも、けがは大丈夫か」
「体が痛いが、ひどいことにはなっていない。そのうち治るだろう」
「ところで、きみはいつまでここにいるつもりだ」ミラは思いきって聞いた。
シャチはうなずいたがすぐには答えなかった。それから、「迷惑だとわかっているし、疑われていることもわかっているよ」と言った。
「そんなことはないけど」
「やつらが来てきみらに何かすると、それはおれの責任なので、その責任を取ろうとしているだけなんだ。
それから、正直に言うと、きみやリゲルから聞いた話や、シーラじいさんか?向こうにいるボスが送ってきた手紙などを考えあわせると、どうもおれの考えはまちがっているかもしれないと思うようになったんだ。もう少し時間がかかるだろうけど、ちゃんと結論を出すつもりでいる。でも、それはぼくの都合なので、みんなが困るならおれはいつでも出ていくよ」
「そうか。きみの考えはわかった。また話そう」ミラはその場を離れた。そして、リゲルにシャチの話を伝えた。
リゲルはしばらく考えていたが、「疑ってもきりがないけど、それが本心だとすると・・・」リゲルは、みんなを見た。そして、「無下に追いだすのもしたくない」
そのシャチに対する警戒を怠らないペルセウスとシリウスも、いつもならすぐに自分たちの意見を言うのだが、リゲルが迷っているためか黙っていた。
そして、リゲルは、「おまえたちはどう思う?」と聞いた。
ペルセウスが口を開いた。「おれたちがここに来た任務は、ミラを見つけて連れてかえることだったんですよね。だが、ここの者がミラを助けてくれたことを聞いて、そのお礼をすることになった」リゲルだけでなく、他の者もうなずいた。
ペルセウスはそれに勢いづいて話しつづけた。「ミラは見つかったが、そのお礼はまだできていないわけです。
それが達成できなければ、クラーケンがいかに強敵でもおれたちは逃げるわけにはいかないわけです」
「そうだ」という声が上がった。
「そのためには、あのシャチを追いだすよりも、おれたちの目が届くところに置いておいたほうが、ある意味、厄介なことが一つ少なくなるということか」シリウスも負けていない。ペルセウスはシリウスにうなずいた。
「ペルセウス、シリウス。ありがとう」リゲルが言った。「それじゃ、あいつが自分で何か言いだすまでは、こちらから何もいわないようにしよう。それでいいか?」全員納得したようにうなずいた。
それから、「ところで、あいつはどんなことをしゃべっているんだ?」リゲルは若いクジラに聞いた。
「いろいろ話します。自分が襲われてから、シャチから身を守る方法について話してくれます。自分が言うのもなんだがと言いながら」襲われた若いクジラが言った。
「それと、親が許しくれるかどうかわからないが帰ったら、親孝行をしたいとか言っていましたね」別の若いクジラも言った。
そこで、クラーケンやその幹部がどこにいるか見つける作戦を続けながら、若いクジラにはそのシャチの言動に細心の注意を払うことが作戦につけくわえられた。
その数日後から、クラーケンらしき集団が一日数回必ずリゲルたちがいる近くを通ることがカモメから報告された。
「何かを探すようなことはしていないな。ただ、かなり南下してどこかへ行く。しかも、一方向だけでなく、あちこちに向かうぞ」
カモメは最高ランクの監視をするようになったので、今のところ遭遇はしていないが、気をつけなければならない。
ペルセウスはやシリウスは黙っていたが、あのシャチと関係があるのではないかとまた思うようになってきた。
その後、緊張が走ることが何回も出てきた。通り過ぎたと判断しても、かなりの距離を置いて、また後続の集団が近づいてくることがあったのだ。
みんなの士気が落ちているのがリゲルにもわかった。カモメと連携して、クラーケンらしき集団を追いかけても、途中で姿を見失うことが増えてきた。
「これではクラーケンを追いつめることができない。場所を変えるべきか」リゲルは迷った。
そのとき、あのシャチがリゲルの元に来て、「お話したいしたいことがあります」と思いつめたように言った。
その様子を見て、すぐに「みんなの前で話してくれないか」と連れていった。
シャチは、「おれの責任で迷惑をかけている。申しわけない」と謝った。「ここでお世話になってから、みんなの考えや気持ちはわかった。どうやら、おれはまちがったことをしていたようだ。何とか責任をとりたいと考えていたけど、おれにできることが見つかった」と言った。みんな早くそれを聞きたがったが黙っていた。
「クラーケンのボスが核兵器を怖がっているのなら、それを使おうと思う」
「核を使う!」ペルセウスが叫んだ。みんなも騒ぎだした。
リゲルが、「静かにしろ!」と制した。

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