シーラじいさん見聞録

   

そのシャチは少し笑顔になって、「もちろん、おれは核兵器を使うことはできないよ。断わる必要もないけどさ」とみんなを見た。「そうじゃなくて、あいつらに、もうすぐ核兵器が落ちるぞとふれまわるのだよ」と話した。
「なぜそんなことを言うのだ。それに、核兵器とはどんなものか分かるのか?」早速ペルセウスが反応した。
「兵隊には分からないだろうな。おれも、きみらから教えてもらうまで知らなかった。
でも、あいつらに核兵器という言葉を吹きこむと、いずれ小隊長や隊長の耳に届く。そして、クラーケンにも伝わると思う。それが狙いだ」
「そうしたら?」
「これもきみらから聞いたが、クラーケンがここにいるのは、核兵器を避けるためなんだろう?それが、もうすぐここに落ちると知ったらどうするか」
「そうしたら、ここを逃げるというのだな」
「そうだ。それもあわててな」シャチはにやりと笑った。
「それはおもしろい」
「でも、うまくいくだろうか」
「それで、みんなに協力を頼みたいのだ」ペルセウスたちはシャチを見た。
「おれが、あいつらにそう言ったとき、みんなはここの者になって逃げる芝居をしてほしいんだ」
それを聞いて笑いが起きた。やがて、「きみの意図はわかったが、もっと具体的に教えてくれないか」とシリウスが聞いた。
「おれも兵隊だったから、やつらのことは分かる。おれは、小隊長に『隊長からの命令です』というつもりだ。小隊長は疑いもなく聞くはずだ」ペルセウスたちの興味が少し湧いてきた。
「つまり、『ここに住んでいる者が、昔から親しいニンゲンから、もうすぐこのあたりで核兵器というものを使うのでしばらく離れるように言われたそうだが、その状況を調べるように』というのが命令だ」
しかし、その筋書きに少し戸惑ったた。それで、「リゲルはどう思いますか?」とペルセウスが聞いた。
「そうだな。クラーケンの耳に届いたら、確認せずとも慌てて逃げるだろう。新聞などに載ったときはもう遅いわけだから」
「なるほど」
「しかし、やつらは、おれたちが見つけようとしてもなかなか足取りが捕まえらないのに、そう簡単に近づけますかね」
シャチが発言を求めた。「きみらは、あいつらの後をつけようとしたから、うまく背後や側面にいけなかったんだ。ところが、おれは、あいつらに近づけばいいのだから、群れを見つけたら一目散に近づくだけだ」
「それなら、一度やる価値はあるな」シリウスの発言にみんなうなずいた、
「リゲル、やりましょう」
「それはかまわないけど、やつらにおまえたちの逃げる様子をうまく見せられるかな」
「おれも、それを考えていたんですけど、幸い優秀なカモメが大勢いるので手助けしてもらいたのです。
小隊長クラスのものは、隊長のためなら命を落としても惜しくないと考えていますから、
命令の中身を疑うものはいません。
だから、おれがカモメに合図をしますから、みんなはこちらにぐっと近づいてから逃げる演技をしてくれたらいいのです」
「危険はないか」
「絶対ありません。それはおれが保証します。初めてここに来た連中はまだ訓練を終えていません。だから、小隊長も、攻撃させるわけにはいかないのです」
「それじゃ、そういうものの群れを相手にしてくれるか」
「わかりました」
カモメも交えて、すぐに作戦会議が開かれた。そして、翌日から作戦開始となった。
早朝、南下して北上する一団を待った。昼過ぎ、カモメが下りてきて、「いるぞ」と報告した。
「それじゃ、向かいます。そして、話をしている途中に、それとなく上空のカモメに合図します。後はよろしく」シャチはそう言うと、急いで泳ぎだした。
「おれたちも行かなきゃ」誰かが叫んだ。シャチを先導する5羽のカモメは小さくなっていた。シャチはその下を泳いでいるはずだ。
リゲルたちをサポートするカモメも5羽で、上空を旋回しはじめた。
「じゃ、行くぞ」リゲルは声をかけた。全員、作戦どおりの距離を置いてついていった。
ペルセウスは、シリウスに、「残りのカモメはおれたちの背後や側面を見張ってくれているけど、きみは、そこを重点的に見てくれよ」とささやいた。
「わかっているよ。これは作戦どおりだ」シリウスは平然と答えた。
あのシャチの言動は今や99%信頼できるようになったが、後の1%は用心するには越したことないというのがリゲルを含めた3人の間にあった。
リゲルが先頭で指示を出して、リゲルが背後や側面を警戒する。そして、何か起きれば、ペルセウスがすぐに連絡する手筈(てはず)は変わらないのだ。
シャチを先導するカモメはすでに見えなくなっていた。後は自分たちのカモメを見失わないようにしなければならない。
そのとき、そのうちの1羽のカモメが下りてきて、「旋回がはじまったぞ!」と叫んだ。
「よし、もう少し近づこう」リゲルが指示を出した。「いよいよか」みんな緊張したが、遅れまいとスピードを上げた。
シャチは、10頭ぐらいの集団に近づき、「小隊長はいますか?」と叫んだ。

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