シーラじいさん見聞録
マイクとジョンは、アントニスとダニエルに会ってきたことをオリオンに報告した。
オリオンは、「ありがとう。みんな元気でしたか」とうれしそうに答えた。
「ああ元気だったよ、二人とも。ホテルのレストランで長い間話したよ」マイクが言った。
「きみのことを話しだすとお互い止まらないよ」ジョンも言った。
「アントニスたちもそうだろうし、ぼくらも、ここでは話しにくいこともあるから、言いたいことは山ほどあるんだ」
「きみがイリアスやジムを助けたことも聞いた」
「二人は?」
「二人はそこにはいなかったが、元気だと言っていた」
「今度会いたいと言っておいた」
「アントニスは、きみが過酷な深海に前のように行くことができるのかとても心配していた。
ぼくらも生物学者なのでその心配はあると答えたのだが、とにかく本人の気がすむまで訓練させてほしいとのことだったので、ぼくらに任せてほしいと言った」
「ありがとう。後何回かの訓練で準備ができると思います」
「近々訓練はできそうだ。クラーケンがこちらに向かっているという情報があったので心配していたけど、急にちりぢりになったそうだ。理由がわからないけど」
「後はジョンが掛けあってくれたら、いよいよけ決行だ。きみとぼくらの協力で世界が変わるかもしれない。いや、変えなければならないと世界中が思うはずだ」ジョンがそう言うと、オリオンは深く頷いた。
「たいへんだ!」という叫び声が上がった。ダニエルの声だ。テレビを見ているはずだ。みんな、仕事場と決めている部屋に駆けつけた。
ダニエルはテレビを指さした。男のアナウンサーが緊迫した顔で話していた。画面の下には「アメリアが核攻撃される」というスーパーが出ている。
「えっ、核!核戦争が起きたのか」ジムが叫んだが、それに誰も返事をしないで画面を食い入るように見つめた。。
アナウンサーは、アメリアのニュークーカにあるアメリア支局を呼びだしていた。しかし、返答はない。
「ニュークーカは、ヒロシマやナガサキのようになっているのだろうか」
「臨時番組は今始まったばかりだが、テレビ局もまだ状況はわからないようだ」
「それで、別の支局などにも連絡しているのだろう」
「おっ、繋がったそようだ」
「メヒコ支局、メヒコ支局聞こえますか。あっ出ました。アメリアが核攻撃されたようですが、何か状況はわかりますか?」アナウンサーが叫んだ。
「まだ何もわかりません。突然アメリアのテレビが消えたので、すぐにアメリカの各支局に連絡を取ろうとしたのですが、どこも出ません。
また、取材のために飛行機の予約を取ろうとしたのですが、そこも出ません。それで車で行けるところまで行こうと思っています」
他のテレビ局に替えたが、どこも同じようだった。アナウンサーの話では、イギリスなどのアメリアの同盟国の監視システムが核爆発を感知した。
当然アメリアも感知してすぐ対応していると考えたが、まったく連絡が取れなくなったというのだ。これは、ミサイルに搭載した核を上空で爆発させたEMP攻撃だと思われると解説していた。
ダニエルは、ケータイやホテルの電話で、アメリアの家族や友人に連絡を取るとしたが、まったく通じなくなっていた。
「心配だな」アントニスが声をかけた。
「家族はニュークーカから遠く離れたカルニア州に住んでいるので大丈夫とは思うが」と答えた。
「帰らなくてもいいのか」
「今はそんなことは考えていないし、当分不可能だろう。詳しくは知らないが、この核攻撃は以前より危惧されていたものだ。
EMPとは、強力な電磁波のことで、放射能とは違って、人間を殺すためのものでないのだ」
「そうか」
「EMP攻撃は、ハイテク社会を破壊するためのものだ。これで、当分、通信、交通などは使いものにならないはずだ。経済活動も当分できなくなるだろう。それに、軍事衛星なども使えなくなっている可能性がある」
「敵はそこを狙ったのだろな」
「それなら、アメリアがすぐに反撃できないのなら、さらに攻撃をしようと思えばできる」
「あっ、アメリアのアルバ大統領が出てきた」
大統領は急いで机に座った。そして、「アメリアは、今日午前1時32分核攻撃された」と話しはじめた。
「人類の絶滅につながるこの蛮行を我々は決して許すわけにはいかない。すぐに反撃しようとしたが、それがわかっているから、それを抑えることにした」話は続いていた。
あれはいつもの大統領執務室ではない。どこかの船かもしれないな。多分迎撃もしただろうがうまくいかなかったんだ」
「だが、やみくもにチャイアかどこかに反撃しなかったのは賢明だったように思える」
「そうだな。これでは戦争どころじゃないかもしれないから」
「行くところまで行ったのだな」ジムが口を挟んだ。
「人類はどうなるの?」
「大統領がどう動くかで決まる」
「オリオンが命がけでがんばっているのに」