シーラじいさん見聞録
二人はオリオンに近寄った。「ようやく海底にいるニンゲンを助けられるのですから、どんなことにも耐えるつもりですが、ただぼくに何かあればそれができなくなるので、どうしようかと考えていました」
「そこまで考えていたのか。何でもするよ」
「ありがとう。ぼくには仲間がたくさんいます。その中にはニンゲンもいます、二人のように」二人はうなずいた。
「この前手紙を頼みましたが、あの手紙は、仲間の鳥からニンゲンに渡って、また、別の鳥がそれを遠くにいる海の仲間に渡ったはずです。ニンゲンは別の手紙も同封したと思いますが」
「仲間の人間はこの近くにいるのか?」
「多分、いえ、まちがいなくそうです」
「それで?」
「お二人に仲間のニンゲンを紹介したいのです」
「みんなと言うと、大勢いるのか?」
「多分5,6人」
「ぼくらからもお願いするよ」
「仲間の人間はきみを助けようとしているんだろう?」
「そうです。でも、今はぼくに何かあったときのために、知り合いになってほしいのです」
「どうして?」
「ニンゲンが閉じ込められている海底の穴を知っているのはぼくだけではなくて、海の仲間にもいます。もしぼくに何かあってもどこかわからないということはありません。
でも、お二人が海の仲間とすぐに連絡を取りあうことはできません。まず仲間のニンゲンが間に入る必要があります」
「それはそうだ」
「それで、まずお二人と仲間のニンゲンが知り合いになってもらわなければならないと思いました」
「そのとおりだ。ぼくらはどこへでも行くよ」
「また手紙を書いてほしいのです」
「わかった。文面を教えてくれ」
「『研究所のスタッフを紹介したい。返事は鳥に渡すこと』」と書いてくれますか。
「それでわかるのか?」
「わかります」
「了解」二人はその場で手紙を書いた。
「これでいいかい?」
「OKです」
「これをどこに?」
「また換気孔に置いてください」
手紙はその日のうちにアントニスたちに届いた。
「オリオンは動きだしているぞ」アントニスが叫んだ。「今度はぼくたちと研究所の仲間を結びつけようとしている」
「前のような手紙を書かすのだから、お互い信頼が生まれているからだよ」
「今度もそのスタッフが書いたのだろうか」
「当然だ」
「それから、オリオンは別の場所にいるようなことをカモメは知らせてくれた言っていたじゃないか」
「それで、大きな水槽に移ったと考えて、仕事中に探そうとしたけど、清掃係はあちこち行けないので、どこかわからなかった」
「スタッフと仲間になれば、オリオンがどこにいるかすぐわかる」
「オリオンは次のことを考えているのだ」
「最新の情報があればすぐにシーラじいさんに伝えられる」
「そうだ。どう返事しようか?」
「何回も書くと見つかる恐れがある。OKの返事と電話番号だけを書こう」
「でも、それをどうするの?」イリアスが聞いた。しかし、みんな黙った。
「カモメや小鳥に頼んで、同じ場所に置いてもらおう。オリオンが信頼しているスタッフが受けとるはずだ」
「そうだった!別に悩むことじゃない」
「みんなオリオンのためならどんなことでもするよ」イリアスはうなずいた。
「そうよ。オリオンはどんなに苦しくても弱音を吐かないし、次のことを考えているわよ」
ミセス・ジャイロも同意した。
「もうすぐすごいことが起きるぞ」ジムは目を輝かせた。、
その夜遅くダニエルの電話が鳴った。ダニエルは電話に出ると、「そうか!」という声を上げた。
その声で、ぐっすり寝ているイリアス以外の者がダニエルのまわりに集まってきた。
ダニエルはそれに気づいて、「明日ミラを探しに出発する」と言って、また受話器に耳を当てた。
話は30分以上続いたが、「それじゃ、気をつけて行ってくれ」と言って電話が終わった。
「やつは、今オタワだが、明日の朝ノルウェーのトルムセという町に向かう」
「早くなったんだな。話をしてからまだ1週間も立っていないのに」
「部長が、ぼくの以前の部長でもあるが、彼が、カナダの新聞社にいる友人に北極圏の資源開発などの取材があれば参加させてくれないかと頼んでおいたそうだ。そうなれば、早く、しかも費用が安く行けるからね。
ところが、さっきカナダの新聞社から部長に電話があって、カナダの無人潜水艦が何者かに完全に破壊されたようで、すぐに取材に飛ぶから、すぐにこっちへ来いという話だった。
それで、やつは、部長の許可を得てオタワに行ったそうだが、あわてていたのでぼくに連絡をするのを忘れていた」