シーラじいさん見聞録
ミセス・ジャイロとジムは、何回も木にぶつかったり、こけたりしながら、ようやく車に乗りこんだ。
そして、あたりの気配を見た。誰もついてきていない。確かにヘリコプターの音はするが、町中を探しているようだ。車のエンジン音も聞こえない。
しかし、いつまでもここにおれない。「行くわよ」ミセス・ジャイロは、ライトを消したまま車を動かした。
そして、道に出る前に、もう一度様子を見た。音も光もない。兵隊たちも、カモメの作戦で正門を出たようだ。
ライトを消したまま左折した。10分も走れば、少し広い広い道に出る。そこ幹線ではないが、車は深夜まで走っていることは調べている。
「ジム、今何時?」
「11時30分だ」
「ありがとう」
「幹線に出れば、車は多いからもう安心よ」
「ジャイロ、ありがとう」
「いいのよ。仲間やホテルのことは言っていないわね」
「ああ、言っていない。風来坊で、病気の母親を見舞うために車を借りようとしただけだと言いはった。拷問されても言わないつもりだった」
「OK。幹線に入ったわ。パトカーなどもいない。様子を見てホテル直行するわよ」
ホテルに近づいた。「少し様子を見ましょう」ミセス・ジャイロはそのまま通りすぎながら、。
駐車場を見た。そこにもパトカーはいない。
「もし、パトカーがいたら、少し入るのを遅らせようかと思ったけど、それも必要なさそうね」
ホテルを一回りして、ホテルの駐車場に、不自然に思われないようにしてエレベータに急いだ。監視カメラがあちこちにあるからだ。エレベータに乗るときも注意したが、異常はない。
ミセス・ジャイロは、大きく息を吸いながら、「事が事だから、地元の警察とも連絡がうまくいっていないのが幸いしたのかもしれないわ」と思った。
二人は、アントニスの部屋をノックした。アントニスは、チェーンをつけたままドアを開いた。
この時間は、ほとんどミセス・ジャイロしか来ないので、わざわざ名前を聞くことはしなかったのだ。
ミセス・ジャイロは、「お待ちどうさま」と言ってほほえんだ。
アントニスはミセス・ジャイロの横にジムがいるの気がついて、すぐにチェーンを外した。
「ジム!」みんなが集まってきた。
「腕白坊主をつれてかえってきたわ」ミセス・ジャイロは頭を下げた。
「勝手な行動を取って心配かけた。みんなのことは一切言っていないので、どうか安心してほしい」と謝った。
「それにしてもよく脱出できたな」アントニスが感心した。
ミセス・ジャイロは、ジムの救出について話した。イリアスは目を丸くして聞いていた。」「カモメたちがいなかったら、助けることができなかったと思う。いや、わたしたちの命さえどうなっていたかわからなかった。ジムが、わたしのほうに走ってきたとき、ピストルを闇雲に撃ってきたから。
その後、カモメたちが大声で鳴いて兵隊たちを反対側にひきよせてくれたので、何とかその間に逃げることができたの」
「今度来たとき、みんなでお礼を言うよ」
「ところで、兵隊はどんなことを聞いていた?」ダニエルが聞いた。
「チャイアに行ったことがあるか。あるいは友だちがいるかなどと何回も聞いていた」
「やはりジムをスパイと考えているのだろう」
「ヘリコプターでどこへ行くと言われた?」
「直接は言われなかったけど、ロンドンの天気などを話していたから、、そっちかな」
「アメリカの大臣がロンドンに出張したのは、同盟国で協議する予定だったのだな」
「ジム、ゆっくり休んでくれ」アントニスがジムに声をかけた。
「兵隊がここに来ることはないだろうか?」イリアスが聞いた。
「そうだな。まずチャイア系の宿泊者を調べるはずだ。それから、長期滞在者をチェックするかもしれない。どうしようか?」ダニエルが答えたが、明確な考えを出せなかった。
「それなら、ぼくが次の童話を書くために来ているとしたら?」
「それがいい。イリアスのことは世界中のニンゲンが知っているから、ぼくらは編集者だ。
ところで、ジムはどう名乗っていたんだい?」ダニエルが聞いた。
「エリック・マーレイ」
「なかなかしゃれた名前だ。ただ、写真をもっているかもしれないので、しばらく隠れているほいうがいい」
「幸いここに来たときからホテルのスタッフにも顔を見られていないから」ミセス・ジャイロも満足した。
数日後、マイクが入ってきた。「どうなりましたか?」オリオンが聞いた。
「友人と相談して、所長に話をした。もうすぐ来てくれる。それと、きみにはうれしいことだが、ジムが脱出したぞ」
「そんなことができるのですか?」オリオンは驚いて聞いた。
「ジムをロンドンに運ぶためにヘリコプターに乗せているときに、敷地内にいた女がジムを逃がしたそうだよ。カモメも鳴いたりして、救出作戦に一役買ってかもしれない。きみが言っていたとおりだな」マイクはうれしそうに言った。
そのとき、ドアのブザーが鳴った。「所長だ!」マイクはジムの話をやめた。