シーラじいさん見聞録

   

カモメは、大勢の仲間を集めていた。何としてもみんなの期待に応えたかったのだ。
しかし、動きがまったくなかった。オリオンは、どこにいるかわかっているが、換気孔からしか様子がわからないので、小鳥に任せていた。
ジムの場合は、今は使われていない気象台の建物にいるのはまちがいないが、まだ取調べが続いているようで、外に出ることはまったくなかった。
とにかく、一瞬の油断も許されない。「こんな夜遅くヘリコプターの音がする!」誰かが叫んだ。

ミセス・ジャイロもヘリコプターが近づいてきているのに気づいていた。「こんな夜中にどうしたのかしら?もしやジムを迎えに来たのは」不安になった。
彼女は、アントニスたちの了解を得て、夜中にジムがいる気象台に続く道に車を止めて、いざというときのために待機していたのだ。
カモメたちも、もちろんそのことは知っていて、何かあればとりあえず彼女に知らせようと決めていた。
「ミセス・ジャイロに教えようか」誰かが聞いた。
「彼女も気がついているはずだ。もう少し様子を見よう」
やはりヘリコプターの爆音はすぐうえで響いた。そして、気象台の広場に着陸した。3,4人のニンゲンが出てきた。
「とりあえずミセス・ジャイロに知らせてくる」1羽が飛びたった。
しかし、そのカモメはすぐに戻ってきた。「ミセス・ジャイロがいない!」
「どうしたんだ!」
「車がないんだ」
「ホテルに帰ったのじゃないか?」
「さっきまでいたんだ。ヘリコプターの音を聞いたのに、帰るわけがない」
「そうだな。それじゃ、2,3人で探そう」
カモメは手分けをして、ミセス・ジャイロを探すことにした。
30分以上かかったが、1人がようやく見つけた。
「どこにいた?」
「海と反対側に細い道があるだろう?あそこを進む車がいた。近づくと、ミセス・ジャイロの車だった」
「しかし、建物のほうには通じていないぞ」
「だから、安全なのだ。ミセス・ジャイロは調べていたのだな。それで?」
「途中に凹んだ場所がある。そこに入れた。おれも下に行ったが、道からは全く見えない。それから、車の近くまで行ったとき、ミセス・ジャイロはおれを見て手を上げた。それから、急いで林の中に入っていった」
「そこは建物の背後になるんだろ」
「そうだ。どうするつもりだろう?これから彼女を見守るよ」
「じゃ、全員で建物を囲むように見張ろう。ヘリコプターの動きに気をつけろよ。もしジムがヘリコプターに乗せられるようなら一大事だ」
「そのときは、ミセス・ジャイロに知らせなくてはならないな」
「そうだ。塀が高いから中が見えないんはずだ」20羽近いカモメは別れた。

ミセス・ジャイロは、小さい光だけで建物の背後に近づいた。しかし、今、どこかにジムが連れていかれたらどうしようもないことはわかっていた。
もしそうでも、ヘリコプターの音がする前に、カモメが知らせてくれるはずだ。そのとき、どうするか考えたらいい。
ミセス・ジャイロは塀を見上げた。暗くてはっきりとはわからないが、3メートルはありそうだ。
近くに手頃な木はないか探した。下から枝が伸びている木を見つけた。そして、枝を伝って塀の高さぐらいまで登った。
内部が見えた。建物が3.4棟ありそうだ。どの棟にも少しだけ灯りがついていた。双眼鏡で見ると、自分の前にある建物に人影が動いていた。
「ここにいるのか。しかし、これからどうすればいいのか」と思ったとき、小さ影がすっと塀の上に止まった。
ミセス・ジャイロは手を上げて、こちらに来るように合図をした。
「ありがとう。このロープを中の木に回してきてくれないかしら」と、ジャンパーからロープを取りだしながらカモメに頼んだ。
カモメは、「そりゃ、危険だ」だと言うように少し首を振った。
「大丈夫よ。危険なことはしないから。とにかく準備だけしておきたいの」
カモメはうなずくと、ロープをくわえてゆっくり塀の中へおりた。そして、太い木に回して戻ってきた。
「ありがとう。助かったわ。何かあったら教えてね」とカモメに礼を言った。カモメは戻っていった。
ミセス・ジャイロはその端を自分がいる木に繰りつけてから、もう一度双眼鏡で動きを見た。
そのとき、エンジンの音が聞こえだした。「ヘリコプター!」
カモメが急いできた。「ジムは出てきていないよ」と小さな声で鳴いた。
「ありがとう」ミセス・ジャイロはそう答えたが、すぐに木を下りて、ロープを伝って塀を登りはじめた。
ようやく塀の上に体を乗せたと思うと、すぐに塀に掴まって敷地に降りた。そして、塀に沿ってヘリコプターのほうに進んだ。
幸い暗闇で木も多かった。すぐにヘリコプターまで30メートルぐらいまで近づくことができた。
カモメもミセス・ジャイロの動きを追っていた。ロープの件は全員知っていたので、ミセス・ジャイロはどんなことをしてもすぐに動けるようにしていた。
「どうするんだろう?」
「彼女の性格からいえば、ジムが出てきたら、何かするぞ」
「出てきた!」4,5人の人間がいる。真ん中にいるのがジムのようだ。
ヘリコプターのエンジン音がだんだん大きくなってきた。そのとき、「ジム!」という声が聞こえた。
その瞬間、ジムが声のほうに走った。「待て!」という声とともに、ピストルが撃たれた。
あちこちからホイッスルが鳴りひびいた。
「よし、反対側におびきよせるんだ」カモメは、ロープがある反対側に向かい、全員で喚きちらした。
「いいぞ。こっちへ集まってきている」さらに喚きつづけた。兵隊は林の中で右往左往している。
しばらくすると、「二人は車に乗って走りだした」という報告が来た。「作戦成功。撤収!」
カモメは飛びたった。

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