シーラじいさん見聞録

   

オリオンも緊張してドアのほうを見た。ドアが開き影が二つあらわれた。
どちらも緊張しているのがわかった。年配の男と若い男だ。若いほうはジョンだ。マイクの友だちだ。いつもマイクと冗談をよく言っている。それなら年配の方は所長か。何回か見たことがあるが、印象は薄い。
「マイク、大丈夫か」年配の男が言った。
「ええ、オリオンは元気ですよ。今まで世間話をしていたところです」マイクは答えた。
所長は、オリオンをずっと見ていたが、ようやく、「オリオン、先日はたいへんだったね」と言った。声は少し上ずっていた。
「はい。無我夢中でしたが、大勢いたので心配はしていませんでした」オリオンはすぐに答えた。
「ほんとにきみは勇気がある」所長はマイクとジョンを見た。イルカが話すのがまだ信じられないような様子だった。ひょっとして何か仕掛けがあるのではないかというようにあちこち見た。
しかし、「まさかここでそんなことが起きるはずはない」と思いなおしたように、「あのときは誰が助けてくれたのかね?」と聞いた。
「クジラです。どこかにいたクジラがぼくを見かねて海面まで運んでくれたようです。クジラはやさしい動物です。攻撃されたので反撃に出たのだと思います」
「そうだったのか。それは悪いことをした」オリオンは、今ミラのことは言う必要はないと判断した。
「あのー、きみらはなぜ人間を攻撃しているのかね?」所長は単刀直入に聞いてきた。
「いや、ぼくらはそんなことをしていません」オリオンはすぐに答えた。
「所長、オリオンは、いわゆるクラーケンが暴れるのをいつも批判しています。そんなことをしても、何も解決しないと」
「解決?」
「もっとオリオンを理解してくださったら、オリオンの考えはわかります」
「そうしよう。ところで、マイク、きみはいつからオリオンが英語を話すのに気がついたのだね?」
「オリオンがここに連れてこられてすぐです。1人でいるとき話しかけてきたのです」
「でも、君はそのことを誰にも言わなかった」
「そうです。いきなり英語を話してきたので、最初は信じられなかったのです。そんなことはありえないとと思ったのです。所長の今のようにです。しかし、いつのまにか友だちのようになって」
「確かにマイクがいると、オリオンは穏やかになります。どんな動物も人間に対して相性というものがあるのだなとわかります」ジョンも助けてくれた。
「わかった。オリオン、海底に人間が閉じ込められていると言っているそうだけど、ほんとか?」
「ほんとです。信じられないかもしれませんが、まちがいありません」
「しかも、そこには光る鉱物が山のようにあったと?」
「そうです」
「そこはどこだかもわかると?」
「わかります。でも、口で教えろと言われても自信がありませんが」
「うむ。雲を掴むような話だ」
「所長、オリオンが話すことがわかってくださったら、オリオンが言っているとがほんとかどうか調べてくれませんか」マイクは頼んだ。
「そうだな。しかし、どこから手をつけたらいいのかよく考えてみないと。とにかく、これがほんとなら研究方針がまるっきり変わる。3人の、いや4人の秘密にして絶対に口外しなようにしてくれ」所長は一人出ていった。
マイクは、「オリオン、ぼくらも所長をせっつくからもうすこしがんばってくれよ」
「オリオン、ぼくもきみの味方だよ」ジョンが言った。
「ありがとうございます」オリオンは礼を言った。
「でも、すごいことになったな」ジョンはうれしそうだった。
「ジョンにも黙っていて申しわけなかった。すぐに話したかったが、もしオリオンに何かあればと思うと言いだせなかった」
「いいんだよ、そんなこと。ぼくでも迷ったはずだ」
「所長にはまだ言っていないけど、オリオンは、仲間とともに、クラーケンから攻撃されながらも、人間を守るためにどうするか懸命に闘ってきている」
「それなら、すぐにでも海に帰したほうが我々のためなんだろうな」
「そうだ。でも、相手国のスパイとして規制事実は一人歩きしているので、これを覆すのは、並大抵のことではいかないだろう」
「ぼくらにできることはないだろうか」
「まずオリオンから聞いた話を全部するよ」
「頼むよ」
翌日、所長がマイクを部屋に呼んだ。そして、「オリオンのことだが、懇意にしている海軍副大臣のクリフに相談した。
彼もひじょうに驚いたが、ぼくがまちがいと太鼓判を押すと、『それなら、今秘密裏に同盟国会議を開いているので、すぐに連れてきてくれ』と言うんだ。それでいいかい?」
と聞いた。
「所長、それはだめです」マイクはすかさずその提案を断った。
「オリオンの生物学的調査にあれほどの時間をかけたのに、ほとんど何もわからなかったわけです。
どこかに連れていって、オリオンに何かあればどうなりますか?今は治療一つできないのですよ」マイクは、オリオンを、仲間がいる場所においておきたかったのだ。

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