シーラじいさん見聞録

   

10羽近くのカモメが、ジムがいる建物の近くの森で、今後オリオンとジムの両方の様子を見るための作戦について話しあっていた。
インド洋から来た元々の仲間のカモメは6羽で、しかも、そのうち2羽はシーラじいさんたちの近くにいる。だから、半分以上はここで仲間になったもので、特に信頼されるものが集まっていた。
「ジムのほうは、おれたちでも安全だ。オリオンの様子は、今までどおり小鳥に任す。
今のところ動きはないらしいが、もし何かあれば、ここに来てくれることになっている。そして、おれたちがすぐにホテルに行く」
「アントニスたちが言っていたが、ジムのことは秘密にされているようで、テレビや新聞にはまったく報道されていない」
「だから、ジムのことはおれたちからしか情報が入らないから、おれたちによろしく頼むということだ。どんな動きも見逃すことはできないぞ」
「秘密にされているということは、敵に知られたくないということだな?」
「そうだ。それも、クラーケンではなくて、ニンゲンという敵だ」
「ニンゲンの敵はニンゲンか」
「クラーケン以上に別のニンゲンを敵と思っている」
「結局オリオンもジムも敵と思われているのだ」
「オリオンは、海底にいるニンゲンを助けようとしているだけなのに」
「そうだ。檻に閉じこめられて死ぬかもしれないというときでも、クラーケンのボスに、ニンゲンを襲うな。ニンゲンのことは自分に任せてくれと言っていた」
「オリオンほど信念と勇気をもっているものはいない」
「何としてもオリオンを助けなくちゃ」
「もっと仲間を集めよう、ジムがアメリカなどに連れていかれたら、おれたちにはどうしようもない」
「監視とともに、仲間を集めることも同時にしなければならない」
会議は終り、ジムのいる建物には2羽を残して、他のものは、自分の仕事のために飛びたった。

ダニエルはアメリカにいる友人から連絡を受けた、同じ新聞社の同僚で、ダニエルが新聞社を辞めるとき、彼にだけほんとの理由を話した。
最初は心配したが、海の生物が暴れるのは温暖化と関係があるはずだから、それを調べてみたいという考えには、徐々に共鳴していったのだ。
しかし、この現象はどこかの国の生物兵器が収拾つかなくなったとしか思えないという世界的な常識があるので、マスコミが温暖化と関連して取りあげることはない。
だから、その友人は、取材の過程で見逃されたこと、わざと隠されたことをダニエルに知らせてくれるのだ。
今度のことでは、副大臣が定例会議をキャンセルしてイギリスに向かったということが分かった。特別な事情がないかぎり定例会議を休むことはないというのだ。
みんなじっと考えこんだ。「どこかへ連れていかれるのなら、そこがどこか事前にわからないか」アントニスが聞いた。
「友だちに、もう一度そこを調べてもらおう」ダニエルが答えた。
「わかったら、わたし一人で行きます」ミセス・ジャイロが言った。
「いや、みんなでやりましょう。スパイと疑われているのなら、そう簡単にはいきません。
陸と空と海のものが力を合わせたら、高い壁でも越えられるはずです」

ベテルギウスは、あたりを見てから一気に潜った。300分ぐらい潜ると海底に着いた。
それから、目印の岩に体をぶつけた。
すると、海底が動きだした。しばらくすると、何かがあらわれはじめた。まず何本もの長い脚が出てきたかと思うと、それが海底を支えるやいなや体がぬっと出てきた。
クラーケンだ。ベテルギウスの10倍近い大きさだ。
そのときに、ベテルギウスの3,4倍はあるサメが、4,5頭集まってきた。クラーケンを守っているものたちだ。
遠征のときは、そのサメが海底に穴を掘り、そこにクラーケンが入った。
たとえセンスイカンが近くを通っても見つけることができなくなっていた。そして、日頃は、部下のサメもそこにはいなかった。たとえ自分たちがセンスイカンに気づかれても、そこには近づかせないようにするためだった。
特に、今日はベテルギウスが報告することになっていたので、みんなは急いで駆けつけたのだ。

クラーケンは、脚を海底につけて部下を見渡した。
「ボス、申しわけございません。自ら力を貸してくださったのに、作戦を途中で中止せざるをえなくなりましたことは、すべて私の責任でございます」ベテルギウスは頭を下げた。
「みんなから聞いた。そこそこ成果が上がっていたのにどうしたのじゃ」低い声が響いた。
「はい。船が港から出てくる場所で、一気に攻撃するつもりでしたが、わたしが、他の場所で命令を出しているときに、ほとんどのものがやられてしまい、次の作戦が取れなくなってしまいました。それで、作戦を練りなおしたほうがいいと考えて、撤退を決めました」
「どうして全滅したのか?」
ベテルギウスは、部下から聞いたことを説明した。
「おまえは、そこにどんな意図があると思うのか?」
「詳しくはわかりませんが、檻に入れられたちっぽけなものをわれらの仲間と勘違いさせて、救出をするときに集中的に攻撃をする意図があったのかと」
「それに、わしらがまんまと乗ったと言うのじゃな」
「はい」
「おまえは一つ言いわすれていることがある。それは意識してか?」
「は?」

 -