シーラじいさん見聞録

   

ダニエルは、警察や地元の新聞社に電話して、「先ほど、港で起きたことをおしえてほしい」と聞いた。しかし、どちらも、そういう事実はないという返事だった。
「案の定、隠されているようだ。こうなると、ジムを救いだすのには時間がかかりそうだ」ダニエルは頭を振った、
「ほんとに申しわけないわ」ミセス・ジャイロは頭を下げた。
「気にしないでください。ジムはオリオンを助けたかっただけですよ」アントニスはミセス・ジャイロを慰めた。
「そう言ってくれたらうれしいわ。ただ、ジムはあなたたちのことを言うことは絶対ありません」
「わかっています。とにかく、明日の朝動こう」
外が明るくなる前にアントニスとダニエル、ミセス・ジャイロはホテルを出た。カモメさえスパイと思われているので、港に近い空でも注意しなければならないからだ。
ミセス・ジャイロの車が動きだしたので、ホテルの屋上にいた2羽のカモメは飛びたった。
「軍関係の建物は何か所かあるが、大体場所は調べている」ダニエルが、そう言って、ミセス・ジャイロに指示を出した。
アントニスは、カモメの動きを見た。しばらく車の上空を飛んでいたが、車の反対方向に向かった。
「おい、待ってくれ。こっちじゃないようだ」アントニスが叫んだ。
ミセス・ジャイロはあわてて止まり、Uターンした。
「あっちには何もないはずだが」ダニエルは首をかしげた。今度は、通りから外れて、小高い山のほうに向きを変えた。
「こっちにはイギリス気象台の建物しかないはずだ。しかも、今は使われていない」
「でも、カモメはそっちへゆっくり向かっている」
「ジムをスパイとして、ここで取調べているのよ」
「奪われないようにするためか」
「まだ向こうに行く」
「でも、これ以上行けないわ」
「今は戻ろるしかない。オリオンのように、カモメが手分けしてジムの動きを見ていてくれるだろう」
「山の中なら、カモメにとっても安心だ」3人はホテルに戻ることにした。

ミラがはリゲルたちとしばらく離れることにした。かなり攻撃を受けたが、幸い急所が外れるはれていたので、致命的なことにはならなかった。
しかし、けがを見てみんなが心配をするのも申しわけないし、血のにおいでクラーケンなどが来ると、新たな犠牲が出ることを避けるためだった。
いったん戻っていたペルセウスが、近くの様子を探っていたが、ミラを認めて、「ミラが帰ってきてくれた!」と報告した。
みんな大騒ぎで、ミラのまわりに集まり、「ミラ、大丈夫か」と声をかけた。
「ありがとう。もう大丈夫」ミラは笑顔で答えたが、まだ痛々しい傷があちこちに残っていた。
「ミラ、おまえのことはみんなから聞いた。よくやってくれた」べらから報告を聞いたシーラじいさんが声をかけた。
「もう少しでオリオンを助けることができたのに、申しわけありませんでした」ミラは、シーラじいさんに謝った。
「いや、あれ以上立ちむかかえば、きみがやられるところだった」リゲルが慰めた。
「ぼくよりオリオンのほうがすごいです。檻に入れられながらも、クラーケンの家来に、これ以上ニンゲンを襲うなと伝えろと叫ぶのですから」
「確かにワイヤーが切れて、檻が沈んでも、オリオンは冷静だったな」ペルセウスも振りかえった。
「あいつは、目の前の困難よりも、その先にあるもっと大きなものを見ている」シーラじいさんは静かに言った。
「オリオンは、困っても、いつも誰かが助けてくれるんだとも言っていました」
「今度こそ助けてやります」ミラは力強く言った。
そのとき、カモメが飛んできた。「ああ、よかった。みんなお揃いでしたか。ミラも無事でよかったな」
「何かありましたか?」リゲルが聞いた。
「そうなんだよ。オリオンを入れた檻は戻る途中また海に落ちた」みんなは驚いた表情になった。
「幸い近くにいた船がいたので、沈んでしまうことはなかったが、どうもオリオンは気を失ったようだ。それで、檻をすぐに船に乗せて治療がはじまった」
「で?」ペルセウスがおそるおそる聞いた。
「1時間ほどで気がついたが、そのまま船で港まで行くことにしたようだ。そして、港に着いて、檻をトラックに積んだとき事件が起きた」
みんなは息を呑んで次を待った。
「ジムがトラックを襲った」
「ジム?」、「ジム!」そんな空気が流れた。
昔、オリオンが海で助けた青年じゃな」シーラじいさんがあらためて説明した。
「そうです。今はアントニスたちと一緒にホテルにいます」
「ジムはなんでそんなことをしたのだろう?」
「もちろん、オリオンを助けるためだ。ジムは、オリオンに感謝していたから」
「それで、ジムは?」
「今hどこにいるかわかっている。近くの建物だ。オリオンがいる建物とはちがうが。アントニスたちも知っている。わしらが教えたから」
「これで、オリオンとジムの二人が捕まっているのか」
「小鳥などの仲間を増やして、両方の動きを見ている。まずは報告をするために来たが、これから急いで帰って、全員で監視する」
「お願いします。何かあったら報告を頼みます」カモメはリゲルの声にうなずき、飛びたった。

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