シーラじいさん見聞録

   

「それが誰か調べてくれませんか」オリオンは頼んだ。
「えっ、そうか!人間にも、きみの仲間がいたのだね」マイクは興奮して言った。
オリオンはうなずいた。「それなら、きみを助けようとしたかもしれないな。でも、どこかの国のスパイかもしれないと判断して、海軍の施設に連れていかれたようだ。
それなら、秘密にされるかもしれない。そうすると、事件の詳細はわからないな。
そうだ。心当たりがある。すぐに調べてみよう」マイクは出ていった。
「アントニスがそんなことをするわけがない。友だちのダニエルか。あっ、ジムか。
今、みんなでホテルにいると聞いているが、ぼくのことを心配して、一か八かに賭けてみたのだろうか。でも、スパイと思われているのなら厄介なことになりそうだ」オリオンは不安になった。
その夜、2羽のカモメがホテルの窓から入ってきた。イリアスはすぐに気づいて、「何かあったのか!」と叫んだ。その声で、みんな集まってきた。
カモメは興奮しているのか、羽を激しく動かすので、「オリオンに何かあったのか?」と聞いてみたが、そうではないらしい。
「オリオンは帰ってきたのか?」カモメは大きくうなずいた。
よかったと胸をなでおろしたとき、隣の部屋にいるミセス・ジャイロが入ってきて、「ジムがいないのよ!」と叫んだ。
「様子を見にいっているのか」
「人通りが少なくなる9時過ぎには、いつも帰ってきているのよ。特に、今日は警戒が強いから、気をつけるように注意したの。わたしが寝てしまったものだから、今まで気がつかなかった」ミセス・ジャイロは悔やんだ。
「午後11時を過ぎている」
「ジムに何かあったのか?」アントニスがカモメに聞いた。
カモメはうなずいた。みんなベランダから外を見た。港のほうはビルで見えないが、何か変った様子は感じられなかった。
「30分ほど前、港のほうでサイレンが聞こえたけど、あれと関係あるのだろうか」イリアスが言った。
サイレンが鳴るのは珍しいことではないが、みんなは顔を見あわせた。「様子を見てくる」アントニスは、ダニエルとあわてて出かけた。
「肝心なことを聞き忘れていた。ジムは今どこにいるのかわかるか」イリアスがカモメに聞いた。
カモメは、少し首をひねったが、すぐにうなずいた。「知っているんだね。それなら一安心だ」
「ジムは生きているよね」ミセス・ジャイロも聞いた。カモメはうなずいた。ミセス・ジャイロの顔がほころんだ。
「多分、ジムはどこかに連れていかれたので、別のカモメが追跡しているが、生きているのはまちがいがないということですよ」イリアスはカモメの伝えたいことを解説した。
「そのようね。ありがとう。二人が帰ってきたら、これからどうするか考えましょう」ミセス・ジャイロはイリアスに礼を言った。

ジムは港の近くにある海軍の施設に連行されて、すぐに取り調べが行われた。
「名前は?」

「エリック・マーレイ」
「住所は?」
「おれは風来坊だから、あちこちうろついている」
「生まれは?」
「グラスゴー」
「おまえが何者かいずれわかるぞ。どうしてこんなことをした?」
「30年以上音信不通だった姉が、いつ死ぬかわからないほど病気が悪くなったんで、すぐに帰りたくなったですよ。
それで、エンジンがかかっているトラックが止まっていたので、少し拝借しようと。もちろん、用事がすめば返すつもりでした」
「お姉さんはどこに住んでいる?」
「それはわかりません」
「それじゃ、どうしてお姉さんのことがわかったんだ?」
「おれが通りを歩いていたら、おれをじろじろ見るとばばあがいたんですよ。ほら、おれのここに北斗七星のような黒子があるでしょう?
おれも見返してやりましたよ。そうしたら、あんた、エリックだろ?私のことをおぼえている?と聞くが、知らないよと言ってやった。
どうも姉の友だちのようでしたが、こんなところで会うなんてと喜んでくれましたが、あんたのお姉さんが弱っている。あんたの顔を見れば、また元気が出るかもしれないと言うので、焦ってこんなことをしでかしました」
「それじゃ、お姉さんは今どこにいるんだね」
「だから、30年も会っていないのでわかりませんよ。とにかく クイーンストリート駅で待っていれば、誰かが教えてくれると言うので、早くそこに行こうと思ったんです」
「そんなでたらめが通じると思うのか。当分ここを出られないぞ」
ジムは大きく息を吸いこんだ。この失敗で、みんな、特にオリオンに迷惑をかけたことや、自分のことが警察に照会されたり報道されたりしたら、どんなことになるのかも考えなかったことを後悔した。

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