シーラじいさん見聞録

   

そのとき、すさまじい音が聞こえてきたかと思うと、真昼のように明るくなった。逃げようとしたとき、激しい攻撃がはじまった。
リゲルたちはすぐに潜った。しかし、ミラはすばやく動けなかったので、至近距離から攻撃を受けた。
リゲルは、5、60メートル潜ってから海面に向きを変えた、「ミラは大丈夫か?」それが頭に浮かんだのだ。
しかし、どこにもいない。リゲルは急いで戻ろうとしたとき、.ペルセウスがいた。
「ミラはどうした?」リゲルが聞いた。「ぼくも、心配で探しに行こうと思っていたんだ」
「ものすごい攻撃だったなあ」
「実は、ここに来る前に撃たれていたんだ」
「ほんとか!」
「かなり血が出ていた。しかし、大丈夫と言っていた」
「探しに行こう」
そのとき、大きなものが来る。「あ、ミラだ!」しかし、体が大きく揺れている。しかも、血の臭いがする。「ミラ!」リゲルとペルセウスは急いだ。
「待っていてくれたのか」ミラは苦しそうに言った。
「かなり攻撃されたのか」
「尾びれで、ヘリコプター1機を不時着させてやった。その間に、何とか逃げることができた」
「すごいなあ。少し休もう」
「そんなことをしなくていい。長くいればいるほど、みんなはバリアにやられてしまう。すぐ行こう」ミラは、そのまま動きだした。
「無理をしないでくれよ」リゲルは声をかけた。
「ぼくが先頭になるから、ついてきてくれ」戻ってきていた若い仲間に声をかけた。みんな、ミラに続いた。

「ダニエルは話をよく聞いてくれたが、ほんとに信じてくれているのかな」アントニスは、イリアスに言った。
「大丈夫だよ。1回も疑ったようなことは言わなかったもの」
「そうか。今度、ぼくらにどんな態度を取るかでわかるだろう」
アントニスは、真実を追いかけるジャーナリストに、子供だましのようなことを信じているのか不安になっていたのだ。
2日後、ダニエルから電話が来た。アントニスが受話器を取るやいなや、「わかったぞ」という声が聞えた。
「えっ!」アントニスも大きな声を上げた。「確かに背びれのないイルカが捕まっているようだ」
「どこに?」
「きみが言っていたように、ギリシャにいたようだ。でもそこからわからない」
「やはり、そうか」
ダニエルはかまわず話しつづけた。「コロンビア大学のキリング教授は、言語学の権威だが、ぼくの同僚が、あるテーマでインタビューを続けていた。
しかし、2,3回あった後、もうこれ以上できないと言われたそうだ。理由を聞くと、妙なイルカを調べれほしいと、国から言われたらしいんだ。
自分は専門ではないと断ったが、ぜひということだったので、もう少し詳しく聞こうとしたが、会ってからということだった。
同僚は、奥様とも懇意にしていたので、しばらくして、どこにいるかか聞いたが、ギリシャのようだが、それ以上はわからないという返事だったそうだ。
国家秘密で、家族にも話してはいけないそうで、それ以上は聞いていなくて、奥様も心配している」
「その後はわからないのか」
「そうなんだ。全米の大学には、そういう教授がかなりいるようだが、この混乱で、それを取材する記者はいないようだ。でも、ぼくが取材する許可を得たから、情報を集めるよ」「頼むよ。まるでセンスイカンの乗務員のようだ。何かあるな」
「まちがいない。ところで、シーラじいさんたちとは連絡はついたかい?」
「まだだ。ジブラルタル海峡で何かあったのだろうか?カモメが来るのを今か今かと待っているのだが」
「そうか。きみらは、そこを離れないほうがいいのだな。よし、調べてみる。多分、同僚記者がいるかもしれないから」ダニエルは、そう言って電話を切った、
アントニスは、すぐにアレクシオスに電話をかけた。そして、ダニエルからの情報を伝えた。
以前よりダニエルについてすべて話をして、アレクシオスから意見を仰いでいたのだ。
信頼できる記者だと思うから、これからも、きみの判断で親しくなったらと言ってくれていたのだ。
「うまくいけば、オリオンがどこにいるかわかるかもしれないな。こっちでも、ジブラルタル海峡の付近のことは調べてみる。
でも、今でも、地中海のあちこちで、クラーケンの一味が暴れることがあるから、海軍のほうで、何か把握しているかどうかわからないが」
アレクシオスとの電話を切ると、すぐにダニエルから電話があった。
「スペイン海軍の幹部から話を聞くことができたそうだ。それによると、1頭のクジラが座礁して死んだので、あのあたりを警戒していた。
すると、仲間らしきクジラがいたので攻撃したようだ。ただし、殺したかどうかはわからない。
でも、多分、クラーケンの一味にちがいないと判断しているらしい。そのクジラの近くに、シャチがいたからだとのことだ」
ペルセウスは頭が真っ白になった。ようやく、「今から海を見にいく」と言った。
「ぼくも行くよ」ダニエルも、そう言って電話を切った。

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