シーラじいさん見聞録
アントニスは、その手紙をシーラじいさんに読んでもらうために、いつものように水に濡れないようにしてから、カモメに渡した。
翌朝、シーラじいさんから返事が来た。「協力を求めよ」と書かれていた。
アントニスは、アレクシオスに電話をした。ジムからの手紙の内容を話し、シーラじいさんの許可を得たと報告した。
「イギリスを出られないというのは気になるが、オリオンに感謝しているのはわかった。それなら、ミス・ジャイロと会って、今の状況を話しておいたほうがいいね」
「シーラじいさんも喜んでいるという手紙を書いておく」
オリオンの親友となったイルカは、さっそく動きだしていた。自分も、いつ機械を入れられて、ここを出るかもしれないからだ。
しかし、オリオンには、今までのように静かにしておくように言った。ニンゲンが不審に思わないようにするためだ。
オリオンは了承した、しかし、最近は、イルカの体内に機械を入れることは少なくなっているような気がしていた。それらしきことを誰も言わなくなっていたからだ。
なぜなのかは全くわからなかったが、今までの経験から、クレーケンのほうで、電波を察知して、そのようなイルカがいれば殺したりしているのではないだろうかと考えていた。
また、あのイルカは、シーラじいさんたちと連絡を取れるようにしようとしているが、そうなれば、どんなにうれしいだろうかと考える一方、ぼくを心配して、ここを離れなくなるかもしれないなと思うこともあった。
しかし、何かしなければ、新しいことはできないのも確かだ。今は様子を見るしかない。
「おまえ、今日は何をしたんだい?」そのイルカは年少のイルカに聞いた。
「外でニンゲンの命令に従う練習です」
「これからどうなると思う?」
「いや、わかりません。突然こんなところに連れてこられたので、じっとしていると、気が狂いそうになります。だから、今は言われるようにしていると気が楽になります」
「そうだろうな。おれも、何をされるか気が気じゃないよ」
「早く帰りたいです」
そのイルカは、体をぐっと寄せた。
「それじゃ、みんなで帰ろうか」
「そんなことができるのですか!」
「できる。みんなで協力すれば必ずできる」
「どうするのですか?」
「今度外に出たら、カモメがいないか探すんだ」
「カモメ?いますよ。ずっとこちらを見ている」
「そうか!カモメに近くまで来るように言うんだ」
「カモメにですか?でも、やつらのことなんか考えたことなんかないですよ。向こうも、そうだろうけど」
「今は昔とちがう。お互いが助けあわなければ生きのこれない時代になってきた」
「でも、言葉が・・・」
「カモメが近づいてきたら、オリオン、レター」と言うんだ」
「オリオン、レター?どういう意味ですか」
「いや、おれもよくわからないが、そう言いつづけるんだ」
「カモメが助けてくれるんですか?」
「そうじゃないが、カモメが、助けるものを連れてくるんだ」
「わかりました」年少のイルカは、力強く答えた。
数日後、そのイルカは外に出た。いつものように2羽のカモメが屋根にいるのがわかった。
ニンゲンにわかないようにしろと言われていたので、ゆっくりその下に行った。
ニンゲンがいなくなったのを見計らって、カモメに向かってジャンプした。
しかし、カモメは身動き一つしない。カモメは、何回もジャンプを続けた。
ようやく、1羽のカモメが下に降りてきた。そのとき、「オリオン、レター」と声をかけた。
そのカモメは、その声に気づいたのか、あわててそのイルカの上に戻ってきた。
イルカは、オリオン、レター、オリオン、レターと叫びつづけた。
カモメは、もう1羽のカモメのそばに戻り、2羽で何か話しあっていたが、すぐに飛びたった。
イルカは、オリオンの親友に伝えた。「でかしたぞ。次どうするかは後で話す」
親友は、ニンゲンの隙を見て、オリオンに伝えた。
「ほんとですか!それじゃ、シーラじいさんと連絡がつくのか」
「そうだ」
「きみの計画どおりになったな」
「やろうと思えば、何だってできるさ。さて、これからどうなるのか教えてくれ」
「カモメはシーラじいさんに伝えるはずです。そうすると、シーラじいさんから、アントニスに連絡が行って、ぼくにレターを書くはずです」
「もう一度聞くけど、レターとは何だったけ?」
「自分の考えを書いたものだよ。それを先ほどのカモメが持ってくるはずだ」
「それをきみに渡したらいいのだな?」
「そうだ」
カモメはシーラじいさんがいる場所に向かった。誰もいないので、しばらく待っていると、ベラが来た。
「ベラ、たいへんだ」2羽のカモメは下りてきた。
「何かあったのですか?」
事情を聞いたベラは、「それはすごいわ。オリオンが動きだしたのよ。すぐにシーラじいさんに伝えてきます。
すぐにアントニスに手紙を用意しますから、すこし待っていてください」
ベラはそういうと、大きな音を立てて姿を消した。