シーラじいさん見聞録

   

しばらくすると、ベラが上がってきた。そして、「シーラじいさんは、あなたたちにたいへん感謝しています。今度お礼を言うそうです。とりあえず、これをアントニスに渡してくれますか」と頼んだ。
「了解」2羽のカモメはそのまま高く上がり、すぐに姿が見えなくなった。
アントニスとイリアスは自宅にいた。その手紙を読んだアントニスは、イリアスに、「すごいことになったぞ!」と大きな声で言った。イリアスも」興奮して、「オリオンはすごいね」と何回も繰りかえした。
アントニスは急いで手紙を書き、カモメに渡した。カモメが、研究所の建物の間のプールについたとき、3頭のイルカがいた。
低く旋回したが、「オリオン、レター」と言ったイルカはいないようだ。
数人のニンゲンが来た。いつものように訓練がはじまるのだ。
2羽のイルカは、それぞれ向かいあった建物から、プールを見下ろしていたが、1羽が、「あいつは、今日は来ないだろうな」と顔で話しかけた。「多分な」もう1羽が答えた。
「しかし、オリオンはうまいこと考えたな」
「さすがだ。おれたちもどじを踏まないようにしようぜ」
「そうだな」
やはり、あのイルカたちは来なかった。
翌日、また3頭のイルカが出てきた。「いるぞ」カモメが別のカモメに合図を送った。
別のカモメは、「よし!」と返事をした。
そのイルカも、ときおり見上げてカモメを探している。
しかし、ニンゲンがいつもいるので、手紙を渡すチャンスは少ない。
ここで焦ると、渡すところを見られてしまうかもしれない。そんなことになれば、手紙を取り上げられ、オリオンに字を読む能力があるだけでなく、、オリオンを助けるものがいるこがわかってしまうのだ。カモメは緊張した。イルカもぎこちない動きをしている。
昼過ぎ、ニンゲンが一人になった。そして、後ろを向いている。すぐに1羽のカモメが下りた。手紙をくわえた1羽が続いた。
1羽がイルカに合図を送り、もう1羽が渡すのだ。しかし、そのイルカは浮かんでこない。
しばらくすると、ニンゲンはこちらを向いた。
カモメは戻った。「どうしたんだ、あいつは!」「おれたちがいることはわかっているくせに」
その日は、もうチャンスがなかった。
そのイルカが屋内に戻ると、オリオンの親友は、「カモメは来ていないのか?」と聞いた。
「来ています。ぼくも、訓練の間を見計らって、様子をうかがっているんですが」と疲れた顔で答えた。
「そうか。オリオンの話では、カモメは、おまえに手紙を渡すチャンスを待っているはずだから、絶対頼むぞ」と言った。
2日後、そのイルカが出てきて、訓練を受けた。1時間ほどすると、別にイルカの訓練がはじまった。
すでに、1羽のカモメはプールの近くに下りていた。チャンスを逃さないためだ。
もし見つかりそうなら、反対側にいた別のカモメが、大きな音を立てて、注意をそちらに向けるようにすることにしていた。イルカも、その計画を感じていたようだ。
訓練を受けているイルカに、3人のニンゲンがかかりっきりになった。
そのイルカは、プールの端に近づいた。そして、口を開けた。カモメはすばやく口に手紙を入れた。
2羽のカモメは、すぐに屋上に戻り、イルカは、口をつぐみ、そのまま人間のほうに戻っていった。
2羽のカモメはうなずきあった。「後は、口から吐きだしたりしないことを祈るのみだ」
それから、1羽のカモメが、成功を報告するために、シーラじいさんたちがいる海に向かった。
イルカは、手紙を口の上部に張りつけるようにしながら、残りの訓練を受けた。
その晩、イルカは、オリオンの親友に手紙を渡した。「レターです」
「よくやったな。見つからなかったか」
そのイルカは、その時の様子を興奮しながら話した。「何か夢の中の出来事のようでした」
親友は、うなずきながら聞いていた。そして、「外のみんなはおれたちを助けようとしているのがわかっただろう?おれたちが、あきらめなかったら必ず出られるからな」と声をかけた。
その夜、親友はオリオンに近づいた。そして、口を開けた。口から出てきたものを見て、オリオンは信じられないような顔をした。
「早く隠せ!」親友は急がした。オリオンは、それをすぐに呑みこみ、「まさかこんなに早く届くとは」と言った。
「なあに、みんなの気持が一つになっていれば、遅くするほうがむずかしいものさ。
何が書いてあるか、また教えてくれ」親友は、そういうと離れていった。
オリオンは、何台もあるカメラの死角を選び、さらに、カメラに背を向けて、口から出した手紙を読んだ。
「オリオン、元気か、アントニスだ。シーラじいさんたちは、きみを助けるために、あらゆる準備をしている。昔、きみが助けたジムもきみを助けると言っている。
イリアスが書いた物語が世界中で売れているのだ。
海のものであろうと、ニンゲンであろうと、仲間がどんどん増えている。もう少し待て」オリオンは泣きそうになった。そして、新たな勇気が生まれるのを感じた。
その頃、アントニスとイリアスは、あの手紙がオリオンに届いたかどうか心配しながら、今度は何を書こうかと話しあっていた。
そのとき、カモメが窓を叩いた。オリオンからの返事かと思ったが、すぐにまさかと打ちけしながら窓を開けた。
アレクシオスからの手紙だった。カモメも、多分、アントニスが返事を書くだろうと思い、すぐに飛びたたなかった。
「ミス・ジャイロが、クレタに来たそうだ。今から新聞社に来ると言っているが、どうする?」と書かれていた。
「すぐ行く」と書いて、カモメに託した。そして、「イリアス、出かけるぞ!」と叫んだ。

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