シーラじいさん見聞録
オリオンは、ウッという声を上げて海面に倒れた。遠くで見ていたリゲルたちは、オリオンの異常に気がついて助けに向かった。
イルカの子供たちも、何が起きたかわからなかったが、オリオンが動かなくなったので、体を支えようとしたが、あせっているのかオリオンの体がくるくる回るだけだった。
「大丈夫だ。きみたちは早く逃げろ!」とオリオンは叫んだ。
リゲルは、3人のニンゲンが海に向って走ってきているのが見えた。何か長いものをもっている。
「オリオン、逃げるんだ!」リゲルが叫んだ。オリオンも、必死で沖に向かおうとした。
1人のニンゲンが立ちどまって、オリオンに向かって何かを撃った。またシューという音が聞こえた。オリオンの近くで水しぶきがあがった。
あっけに取られていた青年は、何が起きているかわかったようで、何事かを叫びながら、ニンゲンを追った。そして、ニンゲンに体当たりをした。
しかし、1人のニンゲンが青年を殴った。青年は海に倒れた。子供がそれを助けようと海の中を走ってきた。
青年は、それでも立ち上がり、ニンゲン追い、足を押さえて転がした。ニンゲンも、大きな声を上げて、さらに青年を殴った。
オリオンは、力を入れようとしたが、体が動かなくなっていた。そして、意識もだんだん薄れてきた。
それでも、最後の力を振りしぼって、かなりの深さまで来た。シリウスとペルセウスが目の前にいる。
もう大丈夫だと思ったとき、背後で大きな声が聞こえた。オリオンが振りむくと、3人のニンゲンが近くまで迫っていて、その向こうに何か浮いている。
子供か。青年が、足を引きずりながら、子供を助けようとしていた。3人は近くまで来ていたが、オリオンは、3人を避けて、子供のほうに戻った。
リゲルたちは、「こっちへ来るんだ」と叫んだ。オリオンは、ぐったりとうつぶせになっている子供の体を押して、上向きにした。
その時、何かが飛んできて、オリオンの体をすっぽり覆った。3人のニンゲンは、それを引っぱりはじめた。オリオンは激しく抵抗したが、リゲルたちは、それを止めよとしたが、できなかった。オリオンの意識はほとんどなくなっていた。
ようやく青年が、ぐったりしている子供のところについたが、足が届かないので、子供を抱いた青年を、リゲルたちが押した。
そのとき、ヘリコプターの音が聞こえた、やがて、岸に近づくと、ロープを下ろした。下にいるニンゲンが、それにオリオンを覆っている網にくくった。
3人のニンゲンと子供を抱いた青年が乗ると、ヘリコプターはすぐに飛びたった。
オリオンは、網に入れられたままだった。
「ああ、オリオン!」みんな泣きながら、オリオンの名前を呼んだ。オリオンはだんだん小さくなり、見えなくなった。
「なんていうことだ」
「ニンゲンを助けようとしているだけなのに、どうしてこんなことをするんだ」
「あいつらが仕組んだ罠にちがいない」
みんな、あまりのショックで動こうとしなかった。しかし、ペルセウスが、何かをくわえて帰ってきた。
「オリオンは、網が飛んできたとき、意識もなくなっていたのに、雑誌の間に新聞と手紙を挟んで残しておいてくれたんだ。それが沈んでいたので、ニンゲンも気がつかなかったようだ」ペルセウスは、事情を話した。
それを聞くと、みんなの心に、何かしなければならないという気持ちが起きた。
それで、シーラじいさんがいる場所まで行った。
リゲルはすべてを話した。「申しわけありません。ぼくが、もう少しオリオンを守るようにしておれば、こんなことにならなかったのに」
シーラじいさんは、じっと聞いていたが、「まあ、待て。おまえたちもたいへんじゃった。そして、オリオンも殺されないような気がする。明日は、ヘリコプターやセンスイカン、グンカンがそのあたりに来ていないかを見るのじゃ」と言った。
その時、カモメ3羽下りてきた。「ヘリコプターが下りた場所までついていきました。
3人のニンゲンが下りると、オリオンは、水が入ったタンクに入れられました。別のニンゲンがオリオンを調べているようでした。
子供と青年は、車に乗せられてどこかに行きました。多分病院なのでしょう。
それが終わると、ヘリコプターは飛びたちました。
オリオンは意識が戻ったようで、タンクの中で動いていました。やがて、トラックが来てタンクを積みました。
すぐにトラックが動きだしたので、7羽はそれを追跡し、わたしたちは、報告に戻ってきました」と話した。
「ごくろうじゃったな。おまえさんたちがいないと、わしらはどうすることもできない。無理をなさらぬように頼みますぞ」シーラじいさんは礼を言った。
「前の晩からいたのに、子供と青年以外のニンゲンがいるのに気がつきませんでした。
これからは、より注意して監視します」オリオンを最初に助けたカモメの主人も答えた。
「気にしなくていいですぞ。あそこには大きな森があるそうじゃから、わからなかったのは当然じゃ」
そして、「わしは、オリオンが集めてくれたものを読んでおく」シーラじいさんは、そう言うと、海に潜った。
翌日はヘリコプターやグンカン、センスイカンも出ていない。また、子供も青年も来ていなかった。
「どうして探さないのだろう?」シリウスが言った。
「子供や青年が一味かどうかわからないが、3人を含めたニンゲンの仕業だと思う」ペルセウスが答えた。
「何のために?」
「オリオンが人間の言葉をしゃべることがわかったので捕まえたのだ。ぼくらは、大体見せものにされる。ジャンプしたり、ボール遊びをしたりね」
「それじゃ、オリオンは、ニンゲンの前でしゃべらされるのか?」
「いやだわ」ベラは泣きそうだった。そのとき、カモメが1羽下りてきた。