シーラじいさん見聞録

   

みんな、カモメのまわりに集まった。
「多分まちがいないと思うのですが、オリオンがいるところはわかりました!」カモメが叫んだ。「どこですか」リゲルが聞いた。
「トラックが、森の中や車の多い町の中を通るものですから、絶対見失わないようにしながら追いかけました。
3時間ほど走って、海に近い大きな家に止まりました。ニンゲンが数人出てきて、タンクを中に入れました。そこには、同じようなトラックが数台止まっていました。島の北側です」
「それじゃ、行こうか」ペルセウスが言った。
「しかし、またどこかに行くかもしれないし、海の近くにいても、ぼくらにはどうすることもできない。とにかくシーラじいさんの話を聞こう」リゲルが押さえた。
「それじゃ、わしらは、動きがないか見張っておきます」カモメはそう言うと、飛びたった。
全員、シーラじいさんがいる場所に向かった。シーラじいさんは、その報告を聞くと、「もう少し様子がわかるまでここにいるほうがいい」と言った。
「それから、今の状況は大体わかった。クラーケンの家来の1人が殺されたようじゃ。
ここに、その死体の写真が載っている」シーラじいさんは、新聞に載っている写真を見せた。みんな新聞を覗きこんだ。確かに今まで見たやつだ。
「ニンゲンに殺されたのですか」
「そのようじゃ。みんなをけしかけているときに撃たれたようじゃな」
「ニンゲンは驚いただろうな」
「全長は15メートルとある。ミラぐらいじゃな。生物学者などが調べているが、今までこういうものがいるという記録がないそうじゃ。
それで、ニンゲンは、スエズ運河を越えてきたものの中に混じっていたのではないか。
また、その大きさから考えて、あちこちの場所に住んでいるものに、ニンゲンを襲うように仕向けているのではないか考える学者もいる」
「他の仲間はどうしたのですか」
「それらが西に向かっているのではないかと考えて、ニンゲンは、戦々恐々としているようじゃな」
「ぼくらは、これからどうしたらいいのですか?」
「新しい動きがわかるまであわてることはない。また、新聞を集めてくれ」
翌日、イルカの子供たちが、何かくわえてきた。
「それは何だ?」リゲルが聞いた。
「あの場所に行ったんです。オリオンがいるかもしれないと思って。すると、あのニンゲンがいたんです」
「どのニンゲン?」
「子供といた若いニンゲンです」
「あいつが来ていたのか!」
「ぼくらは、前のようには近づかずに、様子を見ていた。すると、ぼくらに気づいたのか、手を振ったのです。そして、こっちへ来いというような身振りをした。
しかし、ぼくらは行かなかった。すると、どんどん海に入ってきた。大丈夫かなあと見ていると、何かを投げた。オリオンに投げたときと同じように。
ぼくらは、海岸から誰か来ないか見ながら、近づかなかった。
やがて、ニンゲンは引きかえした。それで、沈んでわからなくなる前にと思ってもってきました」
「ありがとう。それじゃ、シーラじいさんに渡そう」
リゲルたちは、すぐにシーラじいさんに渡した。「手紙じゃな」そして、大きな声で読みはじめた。
「不幸なことになったイルカは、仲間には英語を読めるものがいると言っていました。
それに一縷の希望を見つけて、この手紙を書きました。
こんなことになったのは、私たちに責任があります。町に新聞や雑誌を買いにいったとき、甥がついあのイルカの話をしたのです。
新聞屋の店主は、そんなばかなことがあるかと笑ったのですが、『お兄ちゃんが(わたしのことをそう呼んでいます)、声を録音しているんだ』とむきになってしまったものですから、店主は、『それじゃ聞かせてもらおうか』と言ったのです。
私も、やめりゃいいものを、テープを聞かせました。
店主は、『確かにアメリカ人やイギリス人がしゃべっているようには聞こえるが、わしには、何をいっているかわからん』と答えました。
話は、それですんだので、新聞や雑誌を買ってかえったのですが、翌日、あんなこと起きたのです。
新聞屋が誰かに言ったとしか思えないので、すぐに、新聞屋に、誰かにしゃべったかと問いつめましたが、知らんの一点張りです。
甥の命の恩人であるあのイルカを助けたいのですが、甥が病院に入院しているものですから、すぐに動けません。
あのイルカのお陰で、死ぬことはなかったのですが、あの事件で大きなショックを受けました。
医者の話では、少し時間がかかるらしいのですが、甥が退院すれば、絶対に犯人を見つけようと思っています。それまでは新聞や雑誌を持ってきます。
ただ、不思議なのは、新聞や雑誌には、『人間の言葉をしゃべるイルカを捕まえた』とか、『クラーケンの一味か』というような内容の記事が一切ないことです。
これを読んでいただけるかどうかはわかりませんが、新聞や雑誌とともに手紙を入れておきます。アントニス」
「このニンゲンは信用できるでしょうか」リゲルが聞いた。
「あいつが金儲けでもしようと仕組んだことじゃないのか」シリウスが言った。
「今度は新聞を読めるものを捕まえようという魂胆かもしれないぞ」ペルセウスも同調した。

 -