シーラじいさん見聞録
こちらに向かってくる。船やセンスイカンから発射されたようなものではない。それに、センスイカンにしては小さい。ミラは、みんなを守るために前に出た。
その時、「オリオン!」という声がした。その声はリゲルだ!リゲルが来てくれたのだ。
オリオンたちは、リゲルのほうに急いだ。
「リゲル!よくわかったな」オリオンは叫んだ。
「探したぞ。みんな無事だったか」リゲルも答えた。
「スエズ運河を越えたが、地中海に出られなくなったんだ」オリオンは叫んだ
「オリオン、ここは紅海じゃないんだ」
「えっ!でも、スエズ運河があった」
「多分ホルムズ海峡という場所だ。そして、ここはペルシャ湾だから、どこにも出られない。
しかも、ここは石油が出るから、ニンゲンが一番警戒している海だ。早く出よう」
オリオンたちは言葉がなかった。しばらくして、「シーラじいさんは?」と聞くしかなかった。
「紅海の入り口にいる。きみたちを待ちながら、カモメからの情報を分析している」
オリオンたちは、ペルシャ湾から、ホルムズ海峡、アラビア海と戻り、インド洋に出ると、すぐにアラビア半島に沿って、紅海に着いた。
リゲルは、みんなを、シーラじいさんが待っている海底近くの岩礁まで連れていった。
シーラじいさんがすでに岩から出ているのがわかった。2つの青い目が見えたからだ。
「シーラじいさん、申しわけありません。みんなを危険な目にあわせてしまいました」オリオンは、取りかえしがつかない失敗を詫びた。
「いや、無事だったことがなによりじゃ」シーラじいさんはそれ以上言わなかった。
「てっきり紅海だと思ったのですが、なぜまちかったのでしょうか」
それでも、オリオンは聞かずにおれなかったようだ。そして、アフリカ大陸からアラビア半島に向かったときの様子を話した。
シーラじいさんはじっと聞いていたが、「多分、防衛システムには、方向感覚を狂わすものがついているのじゃろ。
アフリカ大陸に戻ったつもりが、前に進んでいたじゃ。それで、アラビア半島の中ほどまで行ってしまい、また紅海でまで行くつもりが、アラビア半島を越してしまったのじゃろ。
おまえたちが姿をあらわさないと、カモメから聞いたとき、何かを避けるために出てこないと思った。
カモメに、紅海、スエズ運河、地中海を見てくれないかと頼んだ。しかし、どこにもないことがわかった。それで、リゲルに、アラビア半島の反対側を見てくるように言ったのじゃ」
「そうでしたか、みんなに迷惑をかけてしまいました」
「いや、おまえたちのお陰でわかったことが多い。防衛システムは海底までは届いていないとおまえたちが言っていたとカモメから聞いた。他にないか?」
「防衛塩ステムは、ぼくらの影だけでなく、ぼくらが出す音も感知するような気がしたので、危険な場所では、合図をしないようにしました」
「そうかも知れないな。おまえたちが出す音は研究されているから。特にスエズ運河を通るときはそうしなければならないじゃろ」
シーラじいさんが、失敗からも今後に繋がるものを引きだしてくれたので、オリオンたちは、失敗を引きずることなしに、新たな気持ちで作戦に取りくむことができるのだ。
「それでは、海底近くを進む。ただし、海底には通信機器が張りめぐらされているので、それらに絶対近づくな。思わぬ事故を招くぞ。
そして、事前に作戦を確認せよ。そして、やむをえない場合を除いて、お互い合図をしないようにせよ。カモメとの打ちあわせは、その都度ペルセウスが担当せよ」
シーラじいさんは、作戦が計画どおりに進まなくても、自分たちで乗りこえるための根幹を強調した。
「カモメには、スエズ運河の様子を見てきてもらっている。2,3の場所を除いては、すれちがうことさえできぬほど狭いようじゃ」
「それなら、どうして通過するのですか?」シリウスが聞いた。
「空からの様子を聞いたかぎりでは、スエズ運河の担当者が、地中海から来る船と紅海から来る船の順番を決めているようじゃ。だから、同じ方向に行く船は、何十隻と待っている」
「それなら、船がどちらに向かっているときが安全なのですか?」ペルセウスが聞いた。
「それはいい質問じゃ。おまえたちはどう思う?」シーラじいさんが逆に聞いた。
「船が向こうから来るときです。それほど狭いのなら、私たちを見つけても、追いかけることができないから」ベラがすぐに答えた。
「そうじゃ。スエズ運河はどのくらいの距離があるかわからんが、元々地峡といって、陸と陸の狭い場所を利用しているものじゃから、深さもそうないはずじゃ。カモメの報告では、センスイカンも海面に浮いているということじゃ」
「どういうことですか?」ペルセウスが聞いた。
「以前にも言ったが、センスイカンがどこいるかということは、国同士だけでなく、同じ国の海軍の中でも秘密事項じゃ。それが姿をあらわすとは、それほどスエズ運河が狭いということに他ならない」
「ミラは大丈夫でしょうか?」リゲルが聞いた。
「ミラにとっても、その他のものにとっても、かつてない危険な場所だ。特にミラにとっては戻ることはできない」みんなミラを見た。
「大丈夫だ。パパなら、うらやましいと思ってくれるはずだ。だって、『海の中の海』だけじゃなくて、世界を救うことができるのだから」
「そうじゃな。不可能を可能にするためには、今できることを少しずつやっていくことじゃ」シーラじいさんは、ミラの思いを補足した。
「ニンゲンとクラーケンたちの小競りあいは、もうはじまっているようだ。すぐ出発しよう」リゲルが言った。