シーラじいさん見聞録

   

しばらくすると、アフリカ大陸が途切れたように感じた。オリオンは、ゆっくり大陸に近づき、そこを左に曲がり、防衛システムを警戒しながら進んだ。何も異常はない。
「よし、紅海に入ったぞ」オリオンは思った。少し速度を落として、みんなを待った。
すぐに、ミラの大きい体があらわれた。その後ろから、ペルセウス、シリウス、ベラも見えた。
大きな声で話さないようにしていたが、みんなの顔には、ホッとした表情が浮かんでいるのがわかった。
ここでも、防衛システムは海底近くには届いていないことがわかったのだ。呼吸をするために、海面に上がっても、すぐに海底まで潜れば、ニンゲンの追跡から逃れることができる。ただ、深さがあまりないから、絶対に見つからないようにしなければならない。
「みんな無事でよかった」オリオンが言った。
「これからどうする?」ミラが聞いた。
「カモメを待つことになっていたな」シリウスが答えた。
「しかし、上に行けば、見つかってしまうわ」ベラが心配した。
「そうだ。そんなことをすればすべて水の泡だ」ペルセウスも同意した。
オリオンは、みんなの話を聞きながら、どうするべきか考えていた。早くカモメに会わなければならないが、そんなことをすれば・・・。
「それじゃ、ぼくが海面でカモメを待とうか」ペルセウスが言った。
みんなと比べて、ペルセウスの体は細いし、体から出る音も小さい。防衛システムは、大きな海のものの体と音を感知するようだし、それに応じて出される、感覚を狂わす電波の影響も小さい。その証拠に、さっきの電波でも、ダメージもあまりなかったようだ。
「ペルセウス、そうしてくれるか。ぼくらは、スエズ運河の近くまで行く。状況によっては、そこを越して、地中海で待っているから」
「了解。もしセンスイカンなどがぼくを追いかけてきても、きみらはもういないのだから」ペルセウスは笑った。
「じゃ、気をつけて頼む。ぼくたちも行く」オリオンが言うと、ペルセウスは上に向かった。そして、オリオンたちはスエズ運河をめざした。
オリオンたちは急いだ。スエズ運河は狭いと聞いている。そこさえ越せば、大きな危険はない。
左に大陸を感じながら進んだ。2日後、大陸が目の前に迫っているのを感じた。
「スエズ運河にちがいない」オリオンは緊張した。もし防衛システムが海底まで張りめぐらされていたら、どうしよう。
オリオンは、ミラやシリウス、ベラに少し待つように言った。「もし、ぼくに何か異常があれば、防衛システムがあるということだから、作戦を練りなおすことにする」
「ぼくが行こうか?」ミラが言った。
「いや、スエズ運河は狭いから、ぼくが行くよ」
オリオンは一人で入っていった。警戒しながら進んだが、方向感覚を狂うようにはない。ここでも、海底近くは大丈夫のようだ。オリオンは反転して、みんなが待つ場所に戻った。
オリオンは、様子を話してから、すぐに全員で進んだ。
ペルセウスは、海面から顔だけを出して様子を見た。かなりの船が行き来しているが、あわてているようには見えない。まだクラーケンたちは行動を起こしていないようだ。
カモメは、三々五々空を飛んでいるが、誰かを探しているようなカモメはいない。どうしたんだろう。
シーラじいさんやリゲルと合流するためには、カモメに場所を教えなければならない。
おっつけ来るだろう。見つけやすくすればいいのだ。ペルセウスは自分を落ちつかせた。
その頃、カモメは、紅海の上空を行き来しながら、オリオンたちを必死で探していた。
「どうしたんだろう?何かあったのだろうか」
「空から見るかぎり、クラーケンたちは入っていないから、クラーケンたちと何かあったとは考えられない。海の中のことはわからないが」
「それなら、またアフリカ大陸のほうに戻ったかもしれない。ぼくらも戻ろう」
カモメは、またアフリカ大陸の北西部のほうに戻っていった。
オリオンたちは止まった。「スエズ運河だったな」オリオンは振りかえった。
「まちがいない」
「シーラじいさんが言っていたように急激に狭くなっていた」
「しかも、浅い」
「そうすると、わたしたちは地中海にいるのね」
「よし、ここで、シーラじいさんとリゲルを待とう。ペルセウスももうすぐ来るだろう」オリオンは作戦が順調にいっているのを感じた。
しばらくして、様子を見にいっていたミラが怪訝そうに言った。
「オリオン、どうしたんだろう、どこにも出口がないんだが」
「まさか。地中海は大西洋まで続いているんだ。ヨーロッパからアジアまで早く行き来できるようにスエズ運河を開いたと聞いている」
「そうなんだが、とにかく見てくれないか」ミラは納得しない。
そこで、全員で探すことにした。確かに陸が湾曲していて、元に戻る。
ひょっとして、スエズ運河はまだ終わっていなくて、しかも、かなり浅いのかもしれない。
そうであれば、人間にとって好都合だ。狭い範囲で防衛できるからだ。
オリオンたちは、そう思って、徐々に上がっていくことにした。
しかし、どこを探しても、「出口」はなかった。まさかニンゲンが、臨時にスエズ運河を塞いでいるということはあるまい。確かに他の海とちがって、海底から得体の知れないものが出ている。早くここを突破しなければならない。
何か近づいてくる気配があった。センスイカンか。しかし、あまり大きな音波を出せば、見つかるので、全員、身構えて相手の動きを待った。

 -